内部告発者が出版社に送ってきた、違法複製された教材の一部
中国人留学生に大学・大学院入試などの指導をする予備校「行知(こうち)学園」(東京都新宿区)が、市販の本や問題集を丸ごと違法に複製し、学生に配っていたことがわかった。出版社側は被害額は数百万円規模にのぼるとみており、損害賠償を求める方針。
出版社側の調べでは、違法複製されていたのは「マーケティング戦略」(有斐閣)、「1からの経営学」(碩学舎〈せきがくしゃ〉)などの入門書や、留学生向けのセンター試験にあたる「日本留学試験」の問題集(凡人社)など約10社の90冊。出版社側は把握できただけでも違法複製は延べ95万9千ページに及び、被害額は300万円以上と推計している。
著作権法は、学校の授業や私的利用では著作権者に許可なくコピーすることを認めているが、同学園のような営利目的の予備校は「学校」には該当しない。
学園によると、講師がメールで依頼すると、事務担当者がハードディスクに保管してある電子データを印刷し生徒に配布。「日本留学試験対策問題集」(アスク)を159部、「日本語総まとめN3読解」(同)を125部、「マーケティング戦略」(有斐閣)を80部など、1冊まるごと印刷したケースも少なくないという。
違法複製は昨年6月ごろ、内部告発で発覚。出版社は同年8月、違法複製を直ちにやめ、複製した冊数やページ数などを報告するよう求めた。学園から謝罪と複製の実態を報告する回答があったが、出版社側は「数量や期間を過少申告し、一部の関係者に責任を転嫁している」と判断。同年10月、東京地裁に証拠保全を申し立てた。有斐閣の江草貞治社長は「組織的になされた違法複製で、著者や出版社の執筆編集の労苦へのタダ乗りは許しがたい」と話す。
学園は2008年創業。関東や関西に学校があり、昨年の学生数は約1400人で、20校以上ある中国人留学生向け予備校の業界で「シェアは50%で1位」という。東大や京大、早稲田大や慶応大などへの合格実績があるという。創業者の楊舸(ようが)代表は朝日新聞の取材に「創業当初、苦学生を助けたいという思いで始まった複製が暴走してしまった。出版社から指摘を受けてからは一切していない。弁償にも誠実に対応する」と話している。
楊代表によると、中国人留学生を対象にした予備校で市販の教材を違法に複製して渡すケースは少なくなく、中国版ツイッターに問題集の一部を配信している予備校もあるという。(赤田康和)