SLの体験乗車を終えた家族連れ=京都市下京区、佐藤慈子撮影
京都鉄道博物館(京都市下京区)が29日に開館1年を迎える。年間120万人を予想した来館者は、11カ月で140万人を超える人気だ。53両の展示車両とともに評判なのは、構内を走る蒸気機関車(SL)たち。貴重な車両の保存と客の満足の「両輪」の維持に機関士らが奮闘している。
特集:京都鉄道博物館
■「動態保存」のSLでは最新
「来た来た、良い音だ!」。高松市からカップルで訪れた会社員男性(24)が歓声をあげた。カメラの先を満員の客車を牽(ひ)くSL「C62」が汽笛を響かせながら時速10キロほどで走っていく。
前身の「梅小路(うめこうじ)蒸気機関車館」の頃は来館者が年間20万人程度だったのが、博物館になって11カ月で140万人を突破。SL運行は、かつて1日3往復が基本だったが、今は週末には15分間隔で動かしても乗客をさばききれないという。
線路を走らせて「動態保存」しているSL8両の中で、C62は最も新しい。時速129キロで走った記録を持ち、よく磨かれて黒光りしているものの、製造から69年がたつ。今は500メートルの線路を往復しているだけだが、熱でボイラーは伸縮し、傷みは進む。車体から蒸気が漏れ、水が通る管は腐食、故障で2011年は1年間動けなかった。機関士の青山智樹さん(38)は「だいぶお疲れの車両。不調は言い出したらきりがない」と言う。
「無理はさせられない」と、青山さんたちは最近、客から人気のプシューッと豪快に蒸気を出す回数を減らした。釜が高温にならないように石炭の量も控え、車体をいたわる。
博物館になって導入された客車は、大人が計170人乗ることができる。蒸気機関車館時代の2倍以上で、牽引(けんいん)するSLの負担は増した。パワーが小さい1880(明治13)年製造の「義経号」に客車を牽かせるのを取りやめた。
JR西日本が京都鉄道博物館の新設を発表したのは2009年。そのころ、社内では動態保存の断念が議論されたこともある。修理のたびに昔の図面を基に造船関連の会社に手探りで部品を作ってもらっていた。コストがかさみ、通常車両の導入費や整備費が切迫。05年には宝塚線(福知山線)脱線事故も発生し、SLより安全対策に予算を回すべきだとの意見もあった。
それでもJR西は、開館に合わせSLの大規模な修理もできる「検修庫」を新設。「SLの保存は鉄道の安全文化にも結びついている」。長年、車両整備にあたり、博物館副館長を務める藤谷哲男さん(59)は言う。
解体整備時には数千点の部品を扱い、手間をかけて古い車体を扱うため、作業員は体で仕事を覚えていく。現在の作業員28人の中には、30代の若手が5人いる。JR西はこれから整備の中核となる優秀なメンバーを集めたという。
藤谷さんの現在の目標は車両の大規模な修理が必要になる40年先まで、安定的にSLを動かし続けることだ。「無理は利かない車両たちだが、お客さんに楽しんでもらいつつ、保存を通じて安全の精神も引き継いでいきたい」