そば屋でも一番人気はラーメンの「鳥中華」=山形県天童市の「水車生そば」
札幌ラーメンが知られる札幌市でも、とんこつが有名な福岡市でもない。政令指定都市や都道府県庁所在地の中で、1世帯あたりの中華そばの外食費が一番多いのは、山形市だ。なぜ、「そばどころ」でラーメンなのか。店を数軒回ってみた。
まず名物の「冷やしラーメン」。注文すると、和風ダシが効いた一品が出てきた。澄んだたっぷりのスープに氷が浮かぶ。猛暑の土地柄で生まれたが、真冬でも注文は絶えないそうだ。
山形県内には、こうした個性派が点在する。縮れ麺の米沢ラーメン、煮干しや昆布風味の酒田ラーメン、南陽の辛みそ、新庄のとりもつ……。山あり、海あり。起伏に富んだ環境から、それぞれの文化圏で一杯が生まれ、ラーメン好きを飽きさせない。
だが、街中にラーメン店はそれほど目立たない。どうも、そば屋がメニューに盛り込んでいることが大きいようだ。
「こちらのそば屋は、食堂って意識なんだな」。山形県麺類飲食生活衛生同業組合の矢萩長兵衛理事長(69)は、抵抗なくメニューに加えられている理由をそう語る。「で、会議でも、親族の集まりでも、とにかく注文はラーメンが多い。結婚披露宴とか、農作業のお昼に畑まで出前することもあるよ」。そば粉の割合が多い山形のそばは、伸びやすく、出前に向かない。その分、ラーメンの注文が増えるのだという。
矢萩さんは天童市のそば屋の名店の5代目。鳥そばのスープに、中華麺を入れた「鳥中華」をヒットさせた。まかない食だったものを出したところ、大人気に。いまではそばよりも多く出るといい、平均で1日500食。多いときには1500食出たこともある。
組合では、県内外へのさらなるPRのため、「そば・ラーメン案内人」の称号を与える事業を昨年度から始めた。4カ月間に30店のスタンプを集めた240人が、「初代案内人」の称号を得た。そのうちの一人、天童市の市議会議長・鈴木照一さん(49)は笑う。「山形はお米もおいしい。たくさん食べます。その上に、そばも、ラーメンも。どれだけ炭水化物が好きなんだ、と思いますね」(恵藤公浩)
■1世帯あたりの中華そば(外食)への年間支出金額
①山形市 1万5622円
②新潟市 1万1900円
③福島市 1万917円
④宇都宮市 1万541円
⑤盛岡市 1万475円
※総務省の家計調査から。都道府県庁所在地と政令指定都市が対象、2014~16年の平均。