謝長廷氏
今月22日からジュネーブで開かれる世界保健機関(WHO)総会の招待状が、台湾に届いていない。昨年発足した蔡英文(ツァイインウェン)政権が、中国と台湾が「一つの中国」に属するという原則を受け入れていないため、中国が圧力をかけているとみられる。総会の登録締め切りは8日に迫っている。台湾の元行政院長(首相)で、台北駐日経済文化代表処代表の謝長廷(シエチャンティン)氏(駐日代表)が、台湾が参加することの必要性を訴え、国際社会の支持を求める文章を朝日新聞に寄稿した。全文は以下の通り。
台湾、WHO総会の招請状届かず 陰に中国の圧力強化
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今年の「世界保健機関」(WHO)の年次総会(WHA)が5月22日よりスイス・ジュネーブで開催される。台湾は2009年より8年連続でオブザーバーとしてWHO総会に参加している。ところが今年はWHOから招待状が届いていない。全ての人々の福祉を保障するために開催されるWHO総会に台湾が引き続き参加することに対して、日本各界および国際社会の皆様のご支持が得られることを期待している。
台湾は国際社会の広い支持を得て、09年にWHOから招かれ第62回WHO総会にオブザーバーとして出席した。それ以来、台湾はWHO総会およびWHO関連技術性会議に積極的に参加し、台湾および世界の防疫ネットワークを強化するとともに、医療・衛生面に関する課題に直面した国を支援し、共にWHOの目標実現に向けて全力で取り組んできた。
今年、台湾は公衆衛生上の緊急事態対処計画(WHE)への参加など、引き続き専門的かつ実務的にWHOに参加し、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の三つの目標(SDG3・あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する)を実践するために世界と共に努力していく。台湾がもしWHOから欠けたら、世界の保健ネットワークに重大な漏れ穴ができて、保健に対する深刻な脅威となりかねない。
特に台湾は台北飛行情報区を管轄しており、毎年6千万人を超える旅客が出入国し、そのうち台日間では600万人以上の旅客が往来している。もしも台湾がWHOから欠けたら、MERS(中東呼吸器症候群)やエボラ出血熱、ジカ熱などの感染症が発生した際に拡大する恐れがある。また、台湾は渡り鳥が必ず通る所でもあり、鳥インフルエンザの感染拡大リスクも軽視できない。
蔡英文総統は4月27日付のロイター通信のインタビューの中で、「WHOは非政治的な機関であり、世界のすべての国の人々の健康問題および衛生問題に関心を払うことであり、何ら政治的なことはない。台湾は国際実務への積極的な参加者として、我々には貢献できることがあり、同時に台湾の人々も健康および衛生の面からWHO総会への参加を必要としている」と強調した。
WHOは世界の保健ネットワークを構築するために台湾の参加を必要としている。同様に、台湾もWHOを必要としている。台湾は過去8年間、WHOの活動への参加を通して、他国と台湾の経験を分かち合い、即時通報、疾病情報の取得を行い、世界の保健に対してより大きく、より良い貢献を果たしてきた。台湾がWHO総会およびWHO関連メカニズム、会議、活動などに引き続き参加することにより、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の三つの目標を完全に実践することができるのであり、そうしてこそ台湾、WHO、国際社会の3者が共に勝利を得る局面を達成することができるのである。
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【略歴】
謝長廷 台湾大学を卒業後、日本の京都大学大学院に留学。弁護士を経て台北市議会議員、立法委員(国会議員)、高雄市長、行政院長(首相)を歴任。2016年6月より台北駐日経済文化代表処の代表(大使に相当)。台北出身。