くくりわなにかかったオスジカ=1月25日、愛知県豊川市
最近よく耳にするようになった「ジビエ」。野生鳥獣の肉のことだが、活用を進めて増えすぎたシカやイノシシの駆除につなげようと、国が力を入れ始めた。ただ、「万能薬ではない」と専門家からはブーム先行を心配する声もあがる。
「やはりジビエには非常に大きな可能性がある。こうしたことを再認識をいたしました」。4月27日、官邸であった「ジビエ利用拡大に関する関係省庁連絡会議」で、議長を務める菅義偉官房長官が述べた。内閣官房を中心に、農林水産省、環境省、厚生労働省などが連携し、流通や加工体制の整備を進める。4月に2回あった会議では、外食や学校給食、ペットフードなどでジビエの積極利用に取り組む考えを示した。
政府がここまで「前のめり」な背景には、農作物被害だけで年200億円近くにのぼる鳥獣害の深刻さがある。中心はシカとイノシシだ。環境省によると、2013年度末で全国にニホンジカ(エゾシカを除く)は約305万頭、イノシシは約98万頭が生息すると推定され、過去10年でそれぞれ2・3倍、1・3倍に増えた。同時期に年間の捕獲頭数を2~3倍に増やしたが、個体数は減っていない。
その対策の切り札が、ジビエの利用拡大というわけだ。農作物を荒らす動物を駆除し、その肉を活用すれば、被害額を減らし農村の所得も向上できる。昨年末に施行された改正鳥獣被害防止特措法では、法律の目的に捕獲した鳥獣の食品としての利用を明記し、人材育成や関係者の連携強化に必要な対策を国が講ずると規定した。
省庁連絡会議は活用に向けた道筋の一環で、自治体や食品業界などからヒアリングもした。菅官房長官は「今後、農作物の被害防止や自然環境保護のためには、捕獲数を増やしていかなければならない」と関係者にハッパをかけた。