「ムーンライト」(C)2016 A24 Distribution, LLC
作品賞を間違えて発表するという異例の幕切れになった第89回米アカデミー賞。明朗なミュージカル「ラ・ラ・ランド」の関係者に代わってオスカー像を受け取ったのは、ある黒人男性の成長を静かに追った「ムーンライト」のチームだった。昨年、黒人差別だと批判を浴びたアカデミーだが、作品賞を始め、黒人の映画が目立つ結果となった。
「ムーンライト」の作品賞は今年のアカデミー賞を象徴する順当な結果だった。昨年と一昨年、主演男女優賞と助演男女優賞にノミネートされた俳優20人が白人ばかりで、黒人が一人もいなかった。このことが強く批判され、米映画芸術科学アカデミーは、賞の投票に参加する会員の多様化を余儀なくされた。
「ムーンライト」のメガホンを取ったのは37歳の黒人監督バリー・ジェンキンス。主人公の黒人男性シャロンの三つの時代を、章を分けて描いている。第1章(小学生)と第2章(高校生)のシャロンは、母親の愛を得られず、学校でいじめられ、自身の性のありように悩む。しかし、大人になった第3章で、彼はすべてが大きく変化している。
決して恵まれているとはいえないシャロンの人生の断片を、ジェンキンス監督は淡々と、しかし常に温かい視点で見守る。作品賞と脚色賞のほか、小学校時代の主人公に優しく接する麻薬ディーラーを演じたマハーシャラ・アリが助演男優賞を得た。
このほか、「フェンス(原題)」の黒人俳優ビオラ・デイビスが助演女優賞を獲得した。今年ノミネートされた俳優20人のうち、黒人が6人を占め、主演男女優賞は白人が受けたものの、2部門で受賞を決めた。多様性に関するアカデミーの改革が早くも効果を表したともみえる。
しかし、アカデミー賞の黒人俳優は今、そこまでの差別を受けているのだろうか。黒人を描いた作品は「それでも夜は明ける」を始め、「グローリー/明日への行進」「プレシャス」など、一定の評価を受けている。デンゼル・ワシントンを筆頭に、ハル・ベリーら黒人のオスカー俳優も増えてきている。
いま問題なのはむしろ東洋人や…