物見山陸上競技場内で体幹トレーニングをする選手たち。競歩は後半の歩型の崩れをどう抑えるかが勝負の分かれ目という=石川県能美市
石川県は「競歩王国」と呼ばれる。二つの全国大会が開催され、中学生のころから競歩を始める環境がある。2年前、同県能美市の全国大会で、地元で生まれ育った選手が男子20キロ競歩の世界新記録を樹立した。競歩王国が改めてスポットライトを浴びた。石川で競歩に関わる人たちを訪ねた。
時間をめぐる物語「時紀行」
(時紀行:時の余話)世界記録の歩形、いつか大舞台で
■時紀行:競歩の世界記録1時間16分36秒
競歩選手の多くは、視界が開けたコースは苦手だという。1996年アトランタと2000年シドニー五輪に出た石田(旧姓・池島)大介さん(42)=石川県職員=は言う。「広く見えると疲れる。あのコースは両側にほどよく建物があって、直線が長くない。確かに歩きやすいんです」
田園風景のどかな石川県能美(のみ)市内に「あのコース」はある。毎年3月の全日本競歩能美大会で昨年まで使われた街中の周回コース。1周2キロのうちにカーブが8カ所あり、直線部分は最長でも500メートル弱。コース両側の建物が風と視界を遮る。15年3月15日、ここで男子20キロの世界新記録が生まれた。12年ロンドン五輪に出た鈴木雄介選手(29)=富士通=が従来の記録を26秒更新する1時間16分36秒で優勝。観衆はどよめいた。北陸新幹線開通の翌日、能美市生まれの選手が故郷で成し遂げた快挙。ドラマのような展開だった。
石川県は競歩熱が高い。出身者や、練習拠点を置く選手が次々と日本代表に選ばれてきた。現在も鈴木選手の世界記録は破られていないが、けがもあって世界の舞台には遠い。「記録なんか出さん方がよかったんかな」。中学時代から指導した内田隆幸さん(71)=小松短大陸上部監督=は、まな弟子を気遣い、そうつぶやいた。