ナヲさん=佐藤正人撮影
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子どもがほしい、でも仕事を今休むのは――。人気ロックバンド「マキシマム ザ ホルモン」のナヲさん(41)は、そんな葛藤の末、2015年、ライブ活動の休止を宣言した。理由は、第2子の妊活。ファンとメンバーを待たせる焦りや不安、流産と出産を経て、まもなくライブハウスに戻ってくる。
投稿:妊活で悩んだことは?
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「マキシマム ザ ホルモン」は、1998年に結成された4人組バンド。独特の日本語歌詞を、激しいサウンドに乗せるスタイルで10~20代を中心に絶大な人気を誇る。ツアーはいつも即完売。音楽フェスでは数万人収容のメインステージに立つ。ドラマーのナヲさんは、唯一の女性メンバーで08年に元バンドマンの男性と結婚、10年に長女を出産した。
1カ月検診の翌日にはスタジオ入りし、産後3カ月でライブを再開した。育児は両親たちも協力してくれた。娘が熱を出したとき、何とか預けたものの背中越しに泣き声が聞こえ、一緒に泣いたこともある。
ナヲさんが妊活に入る前のライブ=浜野カズシ撮影
■気づくと39歳
自身が3人きょうだいであることもあり「もともと子どもは3人くらいほしいと思っていた」。しかし長女出産後も人気は高まるばかり。海外のフェス出演も増え始めた。13年に発売したアルバムは、オリコンチャートで3週連続1位を獲得した。活動が充実する一方で焦りもあった。14年秋からの活動休止も検討したが、フェスへの出演などが決まり断念。「音源を作ったらツアーに出る。それが終わったら夏フェス……。スケジュールを見ながらもうちょい先、もうちょい先、って妊活を先延ばしにして、気づいたら39歳だった」
自分が休めば、他のメンバーもバンドとしての活動ができなくなる。諦めるべきなのか。他のメンバーには2人目、3人目と子どもができていく。正直、うらやましい。自分の年齢を考えると「どうなるかわからない。妊活って、妊娠して出産しないと終わらない。不安だし、申し訳ない気持ちもありました」。
妊活宣言の前年、「ロック・イン・ジャパン」で演奏する「マキシマム ザ ホルモン」=浜野カズシ撮影
妊活するという決断を、メンバー3人は「だよね!」と尊重してくれた。「メンバーとスタッフの理解があったから、休むことができた」
15年3月、次のツアーが終わったら、活動を休むとブログで発表した。ファンは「待ってます」と声をかけてくれた。なかには「ナヲさんが妊活するなら、私も真剣に考えます」と話す同年代のファンもいた。最後のあいさつは「恥ずかしながら、行って参ります!」。普段と変わらず、ナヲさんらしいユーモア満載で締めた。
2015年3月、自身のブログで「妊活」を宣言。ネットで話題になった。(オフィシャルブログ「ナヲちゃんの桃色吐息」より)
すぐに妊娠した。しかし、8週目で流産した。「どこかで『すぐ産めるっしょ』と思っていたところがあった」
妊活を再開したものの、生理がくるたび涙が流れた。みんなを待たせていると考えるとプレッシャーがのしかかる。
■ブログで流産を告白
流産したことをブログにつづったのは半年後だ。公表することで「誰にも気づかれないけど、つらい思いをした女性たちに、ちょっとは寄り添えるかな」という思いはあった。すると「実は私も……」と、流産などを告白するママ友がたくさんいた。
そして、ナヲさん自身も自分を責める気持ちを分かち合えた。「『大丈夫だよ』という言葉をかけてもらい心強かった」という。
その後、妊娠したが、再び流産の危機に。絶対安静で2カ月を過ごし、中学生のときから毎日たたいていたドラムを初めて封印。16年9月、次女が生まれた。「すっごい笑ってくれる子で。家族みんなで笑うとき、生まれてきてくれてありがとう、って思いますね」
2016年の第2子出産の際は、「分娩(ぶんべん)室いきます」などブログで状況を速報した。(オフィシャルブログ「ナヲちゃんの桃色吐息」より)
前より、色々な人の気持ちを考えるようになった。妊活前のライブで友達が「頑張ってね。私は実は赤ちゃんが産めない体で」と泣きながら応援してくれた。かつて「早く産んだ方がいい」と言ってしまったことがあり、「産めるなら産んでるわ! そう感じていたのかも」。だから自分の妊活宣言で「傷ついた人もいただろうな」と今は思う。
「子どもを産まない人生を選択しても、それはOK。でも、もし産みたいなら、自分の体のことを調べるとか、できることを始めた方がいい。出産って、当たり前ではない」
今月20日から、全国10都市をまわるツアーが始まる。2年ぶりのライブだ。夫は、在宅勤務も可能なIT企業に転職した。小学1年生になった長女は、妹の面倒をよくみてくれる。ひとりでお風呂に入るようにもなった。「髪の毛を拭いてあげると、シャンプーで頭が泡立つこともあるんですけどね(笑)」
ツアー後は、各地の夏フェスにも出演する予定だ。「お客さんもメンバーもずっと待っててくれた。家族には『ここからは全力で行くよ!』と宣言してます」(文・入尾野篤彦、写真・佐藤正人)
「マキシマム ザ ホルモン」のメンバー。右から2番目がナヲさん=齋藤タカヒロ撮影
■プロフィール
ナヲ 東京都町田市生まれ。1998年、「マキシマム ザ ホルモン」を結成。メンバーのマキシマムザ亮君は実弟。長女が保育園年中のとき、父母会の副会長を務めた。5月20日から始まる約2年ぶりのライブツアーは、全会場完売をしている。