ボルダリング壁を登る白石阿島
岩場でダンスをするように――。米ニューヨークに住むクライミングの天才少女は自分のスタイルをこう表現した。白石阿島(あしま)、16歳。両親の祖国で開かれる2020年東京五輪出場も見据えるが、優先したいのは競技会で勝つことより、少しでも難度の高い世界中の外岩を制覇することだという。その美学に迫った。
5月上旬、彼女はかつて舞踏家として活躍した父久年(ひさとし)さん(66)とともにニューヨークの住宅街にあるクライミングジムにいた。週に5日練習する。
ロープを使って登るリードで、スペイン・カタルーニャ地方にある世界最難関レベルのグレード「5・15b」の岩場への登頂に、4月に挑んだ。しかし、ひじの痛みもあって失敗。「もう一度行って、制覇するのが今の最大の目標。すごく難しい。岩の角度が急なのに指をかけるところは、この壁のクラック(裂け目)よりも小さいの」。ジムの壁のわずかな目地を指さして、教えてくれた。
久年さんに連れて行ってもらったセントラルパークの岩場に6歳の時に登った。フィギュアスケート、体操、水泳など数々のスポーツに親しんだが、結局、クライミングに戻った。「やっている人があまりいないし、難しさを究められるところが好き。体の動きはちょっと踊りっぽい。岩の上のダンスみたい」
ボルダリングでは、やはり最難関レベルのグレード「V15」の壁を14歳の時に制覇。世界最年少記録で、女性では世界初の成功者とされる。リード、ボルダリングともに、ユース世代の世界大会で2連覇中だ。
クライマーとしての実力に加え、トレードマークの「前髪ぱっつん」や愛らしいルックスも手伝い、インスタグラムのフォロワー数は19万超。2015年には米タイム誌の「最も影響力のある10代」に、ノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスフザイさんらとともに選ばれた。
日本でいう高校1年生で、「英語や歴史、ライティングが好き」。学年で数人しかいない「オナーロール(成績最優秀の生徒)」に名を連ねる。年に数回は日本を訪れ、渋谷や原宿で服を見て回ったり、ニューヨークではあまり食べられないお好み焼きを楽しんだりするのが大好きだ。
今は日本と米国、二つの国籍を持つ。日本山岳・スポーツクライミング協会も注目する天才少女は、どちらの代表で東京五輪を目指すのか。「日本もアメリカも好きだから、まだわからない」と彼女はいう。両親が生まれた国での五輪に出てみたい気持ちは強い。ただ、クライマーとしては別の強いこだわりもある。
「競技会でたくさん勝っても、クライミングの歴史に残らないのね。尊敬されない」「普通のスポーツだったら競技会が一番大事だけど、クライミングは自然の岩場でやるのが一番大切だから。だから難しい岩をたくさん登りたい」。英語よりも少し苦手だという日本語で、米国育ちらしく、きっぱりと答えてくれた。(平井隆介)
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しらいし あしま 2001年4月、米ニューヨーク生まれ。愛媛出身の父久年さん、福島出身の母ツヤさん(ともに66)の一人っ子。十数メートルの壁に設置されたコースをロープを使って登る「リード」、高さ数メートルの壁で技術を競う「ボルダリング」ともに得意とする。名前は、久年さんの生まれ故郷(新居浜市阿島)から取られた。