現場には主翼が折れ曲がった機体がそのままの状態で残されていた。機体後方にはエンジン部分が落ちていた=9日午前、富山県立山町、朝日新聞社ヘリから、相場郁朗撮影
富山県立山町の山中に小型の単発プロペラ機が墜落し、乗員4人全員が死亡した事故から10日で1週間がたった。険しい北アルプスの空で何が起きたのか。
墜落の小型機、事故調査官が確認 見分は見通し立たず
墜落機「雪の中、動けぬ」 氷点下の山中、捜索は中断
事故で亡くなったのは、いずれも長野県内の21~57歳の男性4人。機体を所有する新中央航空の松本運航所(長野県松本市)によると、この日は48歳の会社員男性の操縦訓練飛行だった。3日中に松本―富山空港間の往復を計画し、復路は富山を3日午後2時23分ごろ離陸、その約30分後に墜落したとみられる。
3千メートル級の山越えルートだが、航空評論家で元日本航空機長の小林宏之さん(70)はこの時、「4人乗りで重くなり、上昇性能が落ちていたのではないか」と指摘する。追い風が強い場合はさらに上昇しにくくなり、尾根に当たった風が下向きに強く吹く「下降気流」に巻き込まれ、斜面にぶつかった可能性もあるという。機体は形をとどめており、墜落後に雪が衝撃を弱め、滑り落ちたとの見方もできるという。
機体発見は、まだ意識があった21歳の男性の通報から約14時間後の翌4日午前5時ごろ。富山県警などによると、小型機に搭載されていた発信器からの遭難信号は受信されなかったという。元航空事故調査官の楠原利行・第一工業大教授によると、発信器は搭載が義務づけられており、墜落時の衝撃で自動的に作動し、位置情報などを知らせる。「正常に発信していれば、捜索が早まった可能性がある」と話した。
富山県警や国の運輸安全委員会の調査はどう進むのか。
業務上過失致死の疑いもあるとして調べている県警の幹部は「ネジの1本まで持ち帰って調べる」「現場の状況が変わる前に実況見分をしたい」と話すが、現場は日本有数の高山地帯で現在も積雪があり、厳しい環境だ。
運輸安全委の航空事故調査官は5日に上空から現場を確認。6日には新中央航空関係者らから事情を聴いた。当時の気象や管制官との交信状況なども解析を進めるが、調査官は実地調査について「地形や気候などの問題があり、これからの課題」と述べた。
国土交通省によると、小型機には飛行状況を記録するフライトレコーダーの搭載が義務付けられておらず、事故機も積んでいなかった。生存者もおらず、調査官は「機長がどういった状況で、実際にどこを飛んだかはもう分かりません」と原因究明の難しさを語った。