頭を下げて握手をし、自己紹介をする亜細亜大の学生たち=東京都武蔵野市
スポーツの現場でボランティアをすれば、単位がもらえる? 2020年東京五輪・パラリンピックに向け、大学でスポーツボランティアを学ぶ動きが広がっている。授業を受ければ単位が認定されるうえ、「就活」でのアピールをもくろむ学生もいる。若いボランティア要員を確保したい大会組織委員会は、大学側に3年後の夏の試験の時期をずらしてもらえるよう打診することも検討中だ。
■まずはつかみ、ボランティアの極意を伝授
「高校時代、送りバントが得意でした。中日の荒木選手みたいなプレーヤーです」
亜細亜大(東京都武蔵野市)の教室に学生の笑い声が響いた。スポーツボランティアの授業で行った「アイスブレイク」の一コマだ。
「最初の一言でどれだけ場を温められるか。他人の印象に残る自己紹介が重要です」。NPO法人「日本スポーツボランティアネットワーク(JSVN)」の特別講師、三谷明男さん(64)は語る。
亜大の経営学部スポーツ・ホスピタリティコースで授業が開設されたのは、今年度から。前期は90分×15回(2単位分)で、スポーツボランティアの基礎知識や身体障害者の介助方法などを学び、後期は東京マラソンなど地域のイベントで実習を行う。「生徒に面接をした結果、東京五輪や19年のラグビーW杯に携わりたいという声が多かった」と担当の横山文人准教授(56)。
授業を受ける石谷陸さん(2年)もその1人だ。陸上部でインターハイ(全国高校総体)にも出場したが、大学生になってからは「スポーツを支える楽しさを知った」。自ら登録し、東京マラソンやBリーグの横浜ビー・コルセアーズの試合で運営の手伝いをしてきた。
「根っからのミーハー気質」と話すのは関根歩美さん(2年)だ。これまで女子バレーや高校サッカーを追いかけてきた。「五輪は一生に1度、あるかないかの機会。資格もお金もないけど、ボランティアならできる」
将来はスポーツクラブやプロスポーツ球団などへの就職を考えており、「スポーツ現場での経験は大きなプラスになる。人脈もできるし、就活でアピールできると思う」。
■大学での講義、じわり普及
JSVNによると、亜大のほか、順天堂大がスポーツボランティアの講義を導入。9月からは早稲田大でも授業を開設し、今後、各大学に広げていく方針だ。「今の大学1年生は3年後、4年生になる。時間がある学生は貴重な戦力」とJSVNの担当者は話す。
JSVNがこれまで各地で開いてきたボランティア講習会の参加者は40~50代が中心。笹川スポーツ財団の調査によると、過去20年間の成人のスポーツボランティア実施率は約6~8%。10代も過去10年間で約12~15%と横ばいで推移している。
単位を取るため、就活に有利そう、という理由によるボランティア参加はありなのか。内閣府(国民生活局)が定めるボランティアの定義は、「仕事、学業とは別に地域や社会のために時間や労力、知識、技能などを提供する活動」となっている。
「入り口は『就活に生かせそう』でもいいと思います。動機はどうであれ、実際にやってみると感動的な体験が出来るというのがスポーツボランティアだから」と原田宗彦・早大スポーツ科学学術院教授は指摘する。ただ、せっかくそうした授業を受けても、20年の夏に社会人になった若者が、「忙しくて参加出来ない」となっては意味がない。原田氏は「20年までの4年間、ずっと1年生の授業としてカリキュラム化するなど、大学側も工夫が必要でしょう」と指摘する。
■学生は貴重な戦力、組織委も期待
東京大会では、競技会場や選手村などで9万人を超えるボランティアが必要とされる。200を超える参加国・地域(NOC)の選手や役員を五輪の選手村でサポートする「NOCアシスタント」と呼ばれるボランティアだけで、約1千人が必要と想定される。真夏の東京は3年後も「酷暑」が予想されるため、大会組織委は、ある程度の語学力があって、暑さにも負けない元気な若者の確保に力を注ぐ。
全国の7割にあたる795の大学・短大(今年4月現在)と連携した大会組織委は、前期の試験期間と重なる五輪の大会期間中、連携大学に試験日程を配慮してもらい、ボランティア活動に参加しやすくすることを検討している。大会組織委の採用担当者は「幅広い年代の方に活躍していただきたいが、特に若い人たちはこれからの人生の幅を広げる意味でもぜひ来てほしい」とラブコールを送る。
募集開始は来年夏の予定だ。(照屋健、平井隆介)