自身の経験も交えて語った鈴木大地スポーツ庁長官=吉村真吾撮影
部活動改革が動き出している。練習時間の長さの是正や休養日の設定などが課題となっている中学校、高校の運動部活動について、スポーツ庁が総合的なガイドラインづくりを始めている。今の部活動にはどんな問題があるのか、どんな在り方が望ましいのか、鈴木大地長官に聞いた。
――どんなガイドラインを目指していますか。
何十年も続いてきた部活動には、現代社会に合わない部分が出てきたと感じます。根性、忍耐、我慢は良い面とともに、選手を潰してしまう面もある。顧問を担う先生たちも、ハードすぎて限界が見えています。専門的知識もなく強制的にやらされている教員は気の毒だし、その指導を受ける生徒にも申し訳ない。
ガイドラインは休養日、練習時間の問題が中心になると思いますが、休養日設定状況や教員の勤務実態のほか、発育発達の段階に応じた適正な練習量を研究者らに聞くスポーツ医科学調査などの結果を踏まえて作成していきます。
■誰が指導するのか
――外部の人材や地域クラブとの連携が必要では?
とても大事なことですが、いろいろな要素がからみます。今年度から、外部の人材が部活動指導員という形で引率もできるよう、学校教育法施行規則を改正してもらったわけですが、誰がやるのか。元教員なのか、オリンピアン、パラリンピアンなのか、適正な指導ができる人なら誰でもいいのか。ボランティアだと十分な指導力のある人材が集まらない可能性もあります。すると、財源が問題になる。総合的に考える必要があります。
■ゆるい部、あっていい
――長時間練習は生徒のゆとりも奪っていますか?
子どもがどこまで忙しくするべきか、というのは考えてしまいます。
――長官はソウル五輪の水泳金メダリスト。中高時はどれくらい練習を?
スイミングクラブで、平日は月曜を除き、午後6時くらいから2時間半か3時間、土日は朝と夕方に3時間ずつ泳ぎました。こういっては何ですが、勉強する時間はあまりなかったです。ただ、水泳はこれくらいはやらないと、トップレベルには行かないですね。
――トップを目指す層と楽しみたい層を分けて考える必要はありますか?
全国体力調査では、運動部や地域のスポーツクラブに所属していない生徒に「どんな条件がそろえば運動部に参加したいか」を聞きました。すると、「自分のペースでできる」が男子は42%、女子は51%いました。大学のサークルのような、ゆるく楽しめる運動部があっていいと思います。
――朝日新聞のフォーラム面アンケートで何が活動時間を左右するかを聞いたところ、「前例踏襲・変えにくい空気」が4割を占めました。
学校の先生はいい意味でも悪い意味でもまじめで、新しいことを取り入れることに抵抗があるかもしれません。今は社会が動いているので、部活動も動かす必要に迫られています。
――ガイドラインを実効性のあるものにするには?
1997年にも「中学校では週2日以上」「高校では週1日以上」などの休養日の設定例がガイドラインとして出されましたが、あまり科学的な根拠がなかったことが反省点。先生が大変だと訴えても、「民間企業の方が大変」という方が多い。今回はスポーツ医科学の結果を使い、練習をやりすぎたら子どもの発達発育にもよくないなど根拠を出すことで、保護者にも説得力が増すと思います。(聞き手・編集委員 中小路徹)
◇
〈部活動のガイドラインづくり〉 20人の委員によるスポーツ庁の有識者会議が5月29日に始まった。今年度中に、練習時間や休養日の設定のほか、外部の人材を生かした部活動指導員の研修の内容、体罰やハラスメントの実態を踏まえた指導の在り方、民間や総合型地域スポーツクラブとの連携などに関し、ガイドラインをつくる。
〈休養日の設定状況と教員の勤務実態〉 スポーツ庁の昨年の全国体力調査では、学校の決まりとして1週間に休養日を設けていない中学校が22・4%、土日に設けていない中学校が42・6%あった。また、昨年の文部科学省の教員勤務実態調査によると、中学校の教員が土日に部活動にかかわる時間はそれぞれ平均2時間10分で、10年前の約2倍に延びていた。