清水宏保さん(右)の手ほどきを受けながら筋力トレーニングに励む羽賀龍之介
「ケツがきつい。痛いっ」。強烈な内股を得意とする柔道のリオデジャネイロ五輪銅メダリストも、思わず弱音を吐いた。
男子100キロ級の羽賀龍之介(26)=旭化成=が6日、札幌市内で報道陣に公開した練習の一幕だ。2連覇を狙う世界選手権(8月28日開幕、ブダペスト)まで50日あまり。さらなる下半身強化に取り組もうと、スピードスケートの長野五輪金メダリスト、清水宏保さん(43)が代表を務めるジムで足腰を鍛えている。
おもりを担いだスクワットの直後、全力で垂直ジャンプ10回。ぐらぐら足元が揺らぐ場所で、スケート選手のようなサイドステップ……。いずれも清水さんが現役時代に取り組んだメニューで、見た目は地味だが相当きつそうだ。
「足の母指球(親指の付け根)にしっかり体重を乗せて。それが足で畳をつかむ感覚につながるから」。顔をゆがめる羽賀に、清水さんの声が飛ぶ。鋼のような体の羽賀も太ももやふくらはぎ、腰回りを休みなくいじめ続け、悲鳴を上げた。
羽賀が清水さんとの練習で身につけようとしているのが、「爆発力」だ。
現役時代の清水さんは、身長162センチの小柄な体ながら太もも回りは約70センチ。その強靱(きょうじん)な足腰で爆発的な力を生み出し、「ロケットスタート」と呼ばれるダッシュ力で世界記録を4度マークした。
一方、柔道は新ルールで男子の試合時間が5分から4分に短縮され、日本選手が従来得意としてきた、後半勝負からの転換が求められている。
得意の内股が海外の選手たちに研究されるなか、羽賀にとっても、できるだけ早くポイントを奪う技のキレ、ここぞの爆発力が不可欠。「海外の選手は最初の1分でトップスピードに乗る。今の僕にはできないことなので、そこは強化しないと」。畳の上で「ロケットスタート」のような爆発力を繰り出すため、競技の壁を越えて、清水さんに師事したわけだ。
2年前に初めて清水さんから指導を受け、そこから世界選手権で初優勝、リオ五輪銅メダルと結果を残してきた羽賀。「(清水さんとの練習で)普段やっていない自分の弱い部分がわかる」と刺激を受けていた。(波戸健一)