筑紫丘前監督の故中村昌樹さん=家族提供
亡き監督への思いを胸に、最後の夏に挑む高校球児がいる。福岡市の筑紫丘高の主将、大曲雄介君(3年)=福岡県筑紫野市=は、4月末に自宅に届いた1通の手紙に勇気づけられた。
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「人を鼓舞する言葉 中村昌樹」と印刷された6枚つづりの紙。添えられた便箋(びんせん)には「気に入るような言葉があれば、力になれたら」と書かれていた。
中村さんは、筑紫丘の前監督。2014年から指揮を執ったが、16年2月に膵臓(すいぞう)がんのため53歳で亡くなった。最後に監督を務めたのは、いまの3年生が1年時の秋の大会。手紙は、中村さんの妻智恵さん(49)が、最後の教え子のために中村さんの言葉をまとめて送ってくれたものだった。
生前、中村さんは言葉にこだわり、「勝負の神様は細部に宿る」「世の中にはチャンスしかない」。前向きな言葉で部員たちを励ました。
筑紫丘はこの春、県大会と地区大会で連続して初戦で敗れた。同じ頃、3年生2人が進路をめざすため、野球部を離れた。
智恵さんが手紙を送ったのは、人づてに大曲君が苦しんでいると聞いたからだった。「夫が元気だったら、なんて声をかけたんだろう」。考えた末、中村さんの「言葉」を手に取った。
中村さんは、家ではチームの話をあまりしなかったが、今の3年生について「良い選手がいっぱいいる。強なるばい」と目を細めていた。だから、智恵さんにとっても「我が子」のような存在だ。「自分が選手だったら、監督が突然亡くなるショックは想像もつかない」
智恵さん自身が、代わりに野球部を見届けようと決め、須恵高(須恵町)で陸上部を指導するかたわら、ここまで筑紫丘の公式戦に足を運んできた。
大曲君は手紙を受け取り、「チームを一から見直そう」と部員に結束を呼びかけた。「監督が応援してくれている。頑張らなきゃ」。勇気がわいた。
智恵さんは、8日開幕の福岡大会でも、遺影とともに球場に駆けつける予定だ。「言葉はかけられないけれど、一緒に見せてあげたい」
大曲君は、まだ手紙のお礼を伝えていない。ただ、感謝を表す方法は分かっている。「甲子園への思いを引き継げるのは、僕らが最後のチャンスだから」(柏樹利弘)