練習後に体重を測定し記録する鹿本商工の選手たち=山鹿市鹿本町
練習を終えた鹿本商工(熊本)の野球部員が続々と、グラウンドに隣接する倉庫に入っていった。床に置いた体重計に乗り、測った体重を自分のファイルに記録していく。大石健太監督(29)が4月に導入した日課だ。
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各選手に短期(1カ月)、中期(6カ月)、長期(12カ月)で、体重を何キロ増やすか目標値を設定させ、毎日、練習後に体重を測る。達成状況を確認し、次にすべきことを考えてもらう狙いがある。指導者もデータを活用する。
この手法は、今年1月、秀岳館の鍛治舎巧監督(66)の講演を聴いて知った。目に見えるデータや数値を駆使して「数値で管理する」という点にひかれて導入を決めた。
鹿本商工は、中学時代は補欠だった選手がほとんどで投手経験者もいない。新チーム発足当時、選手たちは序盤に大量失点を許し、打撃も守備も、途中で諦めてしまうことが多かった。
いずれにせよ失点は避けられない。そう思った大石は、打撃練習に時間を費やしてきた。「攻める気持ちを忘れなければ逆転のチャンスがくると教えたかった」。体重測定も、大きくなれば打撃力向上につながると期待してのことだ。
成果は表れた。5月までの1カ月間にチーム平均で1~2キロ増加。約3キロ増えた最上航洋(2年)は前日より体重が落ちていれば夕飯の茶わんを丼に変えてご飯を食べ、昼の弁当も倍以上食べていたという。パワーがつき「打球の飛距離も伸びた」と喜ぶ。
大石は三振を減らす模索もしてきた。2ストライクの追い込まれた場面を想定し、ストライクかボールか微妙な「くさい球」をカットしてしのぎ、甘い球を待って打つ。大石の高校時代の恩師の助言で始めた練習だ。その後、秀岳館の選手が追い込まれると、足を大きく上げずコンパクトにはじき返す「ノーステップ打法」で打つことに注目。これを参考に、選手にバットを短く持たせ、姿勢が上下左右にぶれないよう言い聞かせた。「秀岳館の打てる子たちも徹底していた。有効だろうと思った」。
主将の宇田翼(3年)は「三振が前より減った。以前は失点すると士気が下がっていたが、今はみんなで声を出して点を取り返す。自信がついた」という。
甲佐が昨夏から打撃練習に取り入れた「ポイント制」も、秀岳館の練習にならったものだ。
打球が70メートル飛べば1ポイント、80メートルで2ポイント、90メートルで3ポイント、100メートルで5ポイントと、飛距離に応じてポイントをつけ、1日に20本打つ。前回の獲得ポイントを下回るとペナルティーを課して日々の向上を促す工夫も加えた。
左翼手の元松龍哉(3年)は身長163センチ、体重52キロと小柄で、当初、打球は70メートルも飛ばなかった。だが、1日25ポイント獲得を目標に練習を重ねるうち、少しずつ飛距離が伸び、獲得ポイントも当初の8から27にまで伸びた。元松は「数値が目に見えるし、他の部員と競いあって目標を達成できるとうれしい」と言う。馬本竜司監督(41)も「選手たちが真剣にバットを振るようになった」と認める。
鹿本商工の大石は秀岳館の鍛治舎がデータを駆使して理論的に指導し結果を出してきたことに注目する。「秀岳館は熊本県にとってはカンフル剤。従来のままの練習ではいかんと考えさせられる」。選手たちにはよくこう言う。「秀岳館の子たちも打ってるだろ、あれくらい飛ばせ」=敬称略(沢田紫門)