カンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」を受賞した是枝裕和監督=2018年5月29日、東京都渋谷区、山本裕之撮影
「万引き家族」が第71回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールに選ばれた是枝裕和監督。劇映画デビューからの20年余りを振り返り、カンヌで受賞することの意味などを語った。
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――カンヌのパルムドールというのは、是枝監督にとってどういう意味があるのでしょうか。
意味? うーん。やっぱり特別な賞ですね。
――世界には3大国際映画祭があります。ベネチアの最高賞である金獅子賞や、ベルリンの金熊賞よりも特別ですか。
そうですね。3大映画祭とはいえ、カンヌは突出した力を持っています。この20年、映画祭に参加していますが、カンヌの1強状態を目の当たりにしてきました。パルムドールが監督のキャリアにとってどれほど大きなことか、遠くからずっと見てきましたからね。
――受賞作を見ると、是枝監督がこれまで作ってきた映画のいろいろな要素が入っていると感じました。いわばミュージシャンのベストアルバムみたいだな、と。
ベストアルバムを作ったつもりはないですよ(笑)。ただ、この約10年で学んできたことを全部出そうと思ったことは確かです。よく評価していただく子どもの演出を取っても、「誰も知らない」から始めた様々な手法を踏襲しながら、今までとはまた異なるやり方をしています。
――是枝映画の面白い部分を詰め込んであるので、パルムドールを狙いにいったのではないかと思いました(笑)。
狙ってない、狙ってない。狙って取れるほど甘くはないですよ。むしろ今回は小さな映画を小さく作って、「見た観客が自分だけの宝物にしてくれるような作品にしたい」とプロデューサーに話しました。実はこういう作品はカンヌには選ばれにくいんです。
――どうしてですか。
自分では社会性を盛り込んだつもりですが、ホームドラマに見られるような気がしたんです。(コンペに選ばれなかったホームドラマの)「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」とは違う映画になったと自分では思っています。でもそちらの系譜に見られたら、カンヌでは埋もれてしまう危険があった。ベネチアの方が小さな映画を丁寧に見る印象があるので、僕は「ベネチアとの両にらみがいい」と言ったんだけど、(製作会社の)フジテレビとギャガに押し切られた。結果的に彼らの判断が正しかったわけですが。
――小さな映画ではあるが、観客を選ぶ先鋭的な作品ではなく、小津や成瀬のような古典映画の風格を備えていると感じました。
自分ではよく分かりません。ただ、僕の映画はこれまで、カンヌで上映すると、「スクリーン」や「バラエティー」といった米国系の映画誌ではアート映画の範疇(はんちゅう)にくくられてきました。そして大抵「長い」とか言われる(笑)。しかし今回はこの2誌が真っ先に評価してくれました。「商業的にも成功するだろう」と。そういう反応を示すとは思わなかったので、ちょっと驚きました。
――これまでの映画と、どこが違っていたんでしょうね。
後半を褒められたんですよね。前半はホームドラマだけど、後半になって、家族を切り刻んでいくじゃないですか。そのあたりからたぶん、観客を含めた物語への巻き込み方に、今までの僕の映画とは異なる強さがあると思ったんじゃないかな。
――確かにそう感じました。前半は「歩いても歩いても」「海よりもまだ深く」のようなホームドラマ調ですが、後半はサスペンスタッチの法廷劇だった前作「三度目の殺人」を思い出しました。
でも、ベストアルバムじゃないよ(笑)。そういう要素がないわけじゃないけど、自分の中のプロデューサーが「それだとまずい」と危機管理センサーを働かせて、撮影監督を近藤龍人さんにお願いし、安藤サクラさんや松岡茉優さんら新しい血を入れました。自分のテリトリーだけで作らないようにしました。
――近藤カメラマンの映像によ…