九回表、中前安打を放ち、一塁で声を上げる神村学園の後藤拓真君=18日、阪神甲子園球場、北村玲奈撮影
(18日、高校野球 明豊9―8神村学園)
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神村学園(鹿児島)は、18日の九州勢対決で延長十二回の末、明豊(大分)に敗れた。だが、2死からの粘りで観衆を魅了した。
3点を追う九回。2死二塁で代打の南川翔哉君(3年)が打席に立った。鹿児島大会では交代で4番を務めた強打者。小田大介監督は「何とかしてくれると信じていた」。中前安打で2点差に迫った。
さらに安打が続き、前の打席で三塁打の羽月(はつき)隆太郎君(2年)に回った。「自分たちの流れになっていたので自信を持って振ろう」。2ストライクと追い込まれた4球目の直球をはじき返し、再び三塁打。試合を振り出しに戻した。
同点の十二回。2死満塁で主将の後藤拓真君(3年)が打席に立った。この回の前まで6打席でわずか1安打。監督のサインはなかったが、左打席から一塁側にバントを転がした。
「誰よりもバントを練習してきた。イチかバチかやっても、監督も仲間も責めないだろう」。相手投手の悪送球も絡み、3点を勝ち越した。救援していた明豊の投手溝上勇君(同)は「バントはあると思っていたが、一塁側に転がされて驚いた」。
この攻撃の前、選手全員でボロボロのボールを見た。昨秋、一球の大切さを学ぼうと、今の3年生全員で1個だけで27アウトを連続で取れるまで、半日、ノックを受け続けた時に使ったボールだ。鹿児島大会の決勝でもベンチに持ち込み、円陣で見ていた。この日も、後藤君は「自分たちはやってきたんだぞ。やれるぞ」と、チームを奮い立たせた。
勝ち越し点をあげ、神村学園のスタンドからは「ありがとう」の声。メガホンを打ち鳴らす音が続き、興奮は最高潮に達した。
だが、その裏、連続安打と四球で2死満塁のピンチを招いた。マウンドの金城伶於(れお)君(2年)は「焦ってしまった」。暴投で1点を返され、安打も浴びて、再び同点にされた。さらに満塁となり、この試合、本塁打を放っている浜田太貴(たいき)君(同)を迎えた。
「甘いところは持っていかれる」。3ボールのあと、2球直球でストライク。最後はまっすぐを投げたがわずかに外れ、押し出しサヨナラ負けになった。
3時間の熱戦。両チームの選手をスタンドの温かい拍手が包んだ。
後藤君は「一球の大事さをこの試合が改めて教えてくれた。後輩はこの景色を忘れず、来年も来てほしい」と話した。(井東礁、前田朱莉亜)