盛岡大付の臼井春貴=柴田悠貴撮影
(20日、高校野球 花咲徳栄10―1盛岡大付)
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■盛岡大付・臼井春貴
試合開始直前、右翼の守備についた盛岡大付の臼井春貴。銀傘の奥に大きな雲を見つけた。「いい積乱雲だなぁ」。心が落ち着いた。
空を見ることが大好きだ。横浜市で暮らしていた小学生のころ、祖母のいる福島を訪れた。覚えているのは、きれいな星空。「一回でいいから、空の上に行ってみたい」と思った。
高校は福島のさらに北にある岩手の盛岡大付へ。移り住んで、驚いた。夜空の黒さと、星の多さ。1年の冬にコツコツためた小遣いで小さな望遠鏡を買った。寮の部屋で暇があれば、月を見る。「そのときだけは嫌なこと、忘れられるんです」
今年の春先に右肩を痛めた。本職は投手なのに、投げる機会が少なく、外野での起用が増えた。楽しめていたはずの野球で悩むことも増えた。
7月にあった岩手大会決勝の前夜、秋田との県境にある雫石町の宿舎に泊まった。散歩をしていると、ホテルの照明が急に消えた。目を見張った。夜空にくっきりした天の川が現れ、流れ星が落ちた。言葉を失った。「あの星空に比べたら俺の悩みなんて、って。スッキリしました」。不安なとき、うまくいかないことがあったとき、空を見上げようと思った。
6点をリードされて迎えた九回の守備。無死三塁、フライが飛んできた。「(タッチアップの走者を)刺してやる」。一瞬、右肩への不安がよぎった。球を捕って本塁へ返球したが、三塁側へそれた。「やっちまった」。リードを広げられ、1―10で敗れた。
薄暮の空を仰いだ。「終わっちゃったな……。いや、やりきった」。悔しさはひいていった。
高校卒業後は東北を離れて、野球を続けるつもりだ。また壁にぶつかることがあると思う。そんなときは、上を見て、思い出す。岩手で見た、満天の星を。(小俣勇貴)