6月、講道館で開かれた国際合宿で笑顔を見せたリネール
柔道界の超人が再始動する。28日にブダペストで開幕した世界選手権の男子100キロ超級で、テディ・リネール(28)=フランス=が、五輪2連覇に輝いたリオデジャネイロ五輪から、約1年ぶりの実戦で大会8連覇に挑む。日本勢はリオ五輪決勝でリネールに敗れた原沢久喜(日本中央競馬会)、世界柔道初出場の王子谷剛志(旭化成)が打倒リネールに挑戦する。男子100キロ超級は大会6日目の9月2日。
王者の余裕の発言だろうか、ライバルへの挑発か。世界選手権開幕前、リネールは言っていた。「リオ五輪の後、何もしないで出場する世界選手権は私にとって大きなチャレンジだ」
リオ五輪からのこの1年、一時、体重はベストより約30キロ重い165キロまで増えたという。「金メダルをとったのだから、食べる、飲むのは当たり前だよ」。実戦からも離れていたため、国際大会の獲得ポイントで決まる世界ランキングも14位まで急降下。今大会はノーシードからの出場だ。
それでも、優勝候補の筆頭は揺るがない。6月、東京・講道館で開かれた国際合宿では145キロまで絞り込んだ体を披露した。原沢や王子谷、羽賀龍之介(旭化成)ら日本選手にも胸を貸し、「柔道が楽しい。早く試合がしたい」と、充実の稽古を積んだ。
「柔道が生まれた国で金メダルを取れたら満足できる」と、2020年東京五輪までの現役続行に迷いはない。そして、東京の次の2024年は母国のパリ五輪が決定的だ。「野村(忠宏)選手を超える、五輪4連覇をパリで目指せればいいね」。世界一に君臨し続けても、畳に上がり続ける新たなモチベーションが、リネールには芽生えた。
開幕前の組み合わせ抽選で原沢は、リネールと反対のブロックに入り、決勝まで当たらない。一方、王子谷が勝ち上がれば、準決勝でリネールと当たる可能性がある。東京五輪の代表を争う、同い年の原沢と王子谷は、「自分が先にリネールを倒す。それこそが代表に近づく道」と対抗心を燃やす。
原沢は組み手、王子谷はリネールの攻めに対応する防御を勝負のカギに挙げている。(波戸健一)