援助を受け、海外での車いすテニスの練習と試合に初参加した坂口竜太郎君(白石貴久さん提供)
障害者スポーツ少年に海外に挑戦する機会を――。2020年東京パラリンピックは25日で開幕3年前を迎えた。そんななか、多様な体験をする機会が限られる障害児向けに、海外活動支援の取り組みが始まっている。日本と海外との障害者を取り巻く環境の違いを肌で感じてもらい、日本の現状を変える人材育成の狙いもある。
7月、米カリフォルニア州ロサンゼルス郊外の太平洋に面したテニスコートで、明るい日差しを浴びながらラリーをする車いすテニス選手がいた。千葉県浦安市の中学2年生で、全日本ジュニアランキング1位の坂口竜太郎君。相手は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)テニス部で、全米学生テニス協会(ITA)の最優秀新人選手となった柴原瑛菜さん。ボールの音が青い空と海に吸い込まれた。
このイベントを主催したのは、NPO「B-Adaptive Foundation(BAF)」。障害者アスリートの海外での活動支援を目的に、大リーグ選手会公認代理人として岩隈久志投手らの代理業などをしている星野太志さん(39)が今年、設立した。第1号選手として参加し、初の海外試合にも出場した坂口君は、「アメリカの選手はパワフルでフレンドリーで、一緒にいて楽しい人がいっぱい」と話した。
日本の大学でアイスホッケー選手だった星野さんは卒業後、米国の大学で経営学を学んだ。米国では、車いすで町を行き交う人は多く、気軽に声を掛け合って必要があれば手助けする光景は日常だった。
一方で、障害を持つ友人から、日本では車いすで出かける人が少ないと聞いた。「過去1年間に外出を伴う娯楽をしたことがない障害者は4割」という内閣府の調査結果にも驚いた。障害者が外の世界に飛び出しやすい環境づくりのために、自分の仕事を通じて何かできないかを考えた。
2020年パラリンピックの開催が決まり、障害者スポーツ選手のスポンサーが増え、奨学金もできた。ただ、まだ数は多いとは言えず、特に少年が海外で試合や練習をする機会は限られている。「社会に影響力を持って障害者の環境を変えていけるアスリートを育てたい。そのためにも、スポーツのすそ野を広げたい」と考え、構想を練ってきた。
柴原さんの父・義康さんが留学先の指導者として協力を申し出た。JTBが大きなスポンサーに、小口のサポーター数社が集まり、取り組みが動き出した。星野さんは「スポーツを通じて多様な経験をして社会のリーダーになれる人が育つ場に」と意欲を語った。(後藤太輔)