少女像を守る活動をしている大学生を取材する池上さん
来年に韓国で開かれる平昌(ピョンチャン)冬季五輪・パラリンピックに向け、ジャーナリストの池上彰さんが韓国を取材するシリーズ。第4回は、開幕まで5カ月を切って大会に関心が向き始めた今、日本の人々にとって気がかりな活動の現場をソウルに訪ね、取材した。
日韓関係どうなる? 池上彰さん、駐日韓国大使らに聞く
五輪会場近く、今も戦時下の現実 池上彰さんが見た韓国
池上彰さんが追う平昌五輪 韓国は盛り上がっているのか
どうもモヤモヤする。ソウルの日本大使館前に少女像が設置され、今度は徴用工像まで。慰安婦と呼ばれる女性たちがいたことは事実だし、徴用工の存在もあった。日本人として申し訳ない思いがある。
その一方で、日本は謝罪してきたし、相応の解決金も出してきた。ところが、それで終わらない。来年の平昌五輪に、日本から気持ちよく応援に行くには、この問題を何とかしたい。現地を見ることにした。
ここで慰安婦問題を巡る日韓合意について確認しておこう。2015年12月、ソウルで行われた日韓外相会談で合意したもので、日本政府は、こう表明した。
「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり、癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」
その上で韓国政府が設立する財団に10億円を拠出。「今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と明記した。これを受けて韓国政府は、日本大使館前の少女像について「適切に解決されるよう努力する」と述べている。
それなのに……である。
まずはソウルの日本大使館前で少女像を「守っている」団体のメンバーに話を聞いた。「少女像籠城(ろうじょう)大学生共同行動」の朴志蓮(パクチヨン)さんだ。
日本大使館が入るビルは韓国の警察が警備している。ビル近くの歩道に少女像が設置され、少女像の横にはビニールテントがあって、寝泊まりできる。大学生だが、休学して2年になるという。
いつまでやるつもり?
「韓日合意を廃棄するまでです」
なぜこんなことを?
「(慰安婦問題は)歴史の中の話だと思っていました。でも、(元慰安婦の)おばあさんの話を聞いて、今も進行していることだと知ったからです」
大使館の前に少女像を置くことはウィーン条約に違反していると日本は指摘する。条約では大使館の受け入れ国には「威厳の侵害を防止するためすべての適当な措置をとる特別の責務を有する」となっている。どう思う?
「民間人が私費を投じてつくったもので、威嚇するものではありません」
日韓合意で、慰安婦問題は解決済みと合意したことについてはどう思う?
「おばあさんたちはそれに対して、とても反発しました。公式謝罪や法的賠償については何の言葉もなく、しかも賠償ではなく、補償金、寄付金の状態でお金をもらうという、怒るしかない状況でした」
そのお金を受け取ったおばあさんたちもいるが。
「おばあさんたちも多様です。名誉と人権を回復しようという考えの人もいましたが、疲れ果てた人もいます。高齢ですし、『自分は終わりにする』という人もいるわけです」
安倍総理が謝罪している。あれでは不十分?
「真摯(しんし)さをみせようとするなら、直接おばあさんたちを訪ねるべきです」
国民の選挙で選ばれた政府同士の約束は、それぞれの国民に不満があっても守るのが民主主義では?
「大統領が国民を無視して結んだことです。私たちが朴槿恵(パククネ)大統領を引きずり下ろした大きな理由の一つがこの問題だと思います」
あなたは日本が嫌い?
「いいえ、好きです。漫画も好きですし、ハハハハハ。すしも好きですし。隣の国ですし。外国に行けば、顔が似ているじゃないですか。日本人に会えば、懐かしくなります。歴史的な事実について解決すれば、もっと良い関係になるのではないかと思います」
見るからに普通の女子学生だった。私の質問に時折目を泳がせる場面もあって、過去の日韓の交渉経緯について詳しくない様子も見受けられたが、元慰安婦の「おばあさん」への純粋な思いが原動力になっているようだった。