黒沼由理さん=2006年9月、代表撮影
川崎市宮前区のトンネルで2006年、近くに住むアルバイトの黒沼由理さん(当時27)が刺殺された事件で、神奈川県警は10日にも、同市高津区に当時住んでいた元会社員の男(37)を殺人容疑で逮捕する方針を固めた。男は別の女性への殺人未遂罪で有罪とされ、服役中という。捜査関係者への取材でわかった。県警は面識のない2人の女性を狙った連続殺傷事件とみて調べる。
11年前の女性刺殺容疑で男逮捕へ 殺人未遂罪で服役中
捜査関係者によると、06年9月23日午前0時ごろ、宮前区のJR武蔵野貨物線の線路下のトンネルで、歩いて帰宅する途中の黒沼さんの右胸や左腹を刃物で刺し、殺害した疑いがある。
男はこの事件から半年余り後の07年4月に約1・5キロ南の同区の路上で、面識のない会社員女性(当時40)を刺して大けがを負わせたとして逮捕され、09年8月に懲役10年の判決が確定した。
男は昨年1月、「話がしたい」との内容の手紙を県警の捜査員に送ってきた。任意の聴取に対して黒沼さんの殺害を認め、犯行時の状況や前後の行動などを詳細に説明したという。
県警が裏付けを進めると、男の説明と黒沼さんの遺体の状況に矛盾はなく、現場近くのスーパーの防犯カメラに当時、男のものとみられる車が映っていた。凶器の刃物は「捨てた」と述べたが、見つかっていないという。刑務所からの仮出所が迫る中で、県警は逮捕の方針を固めた。
黒沼さんの父俊昭さん(65)は8日、「この11年間は時間が止まって動かない感じがしていた。ようやく進んだ」と話した。
黒沼さんはパティシエを目指し、自分で学費をためて専門学校に通っていた。周囲には「ケーキを出す小さな喫茶店を出したい」と話していたという。俊昭さんは「明るく楽しそうにしていた。やりたいって気持ちだったんだなって思います」と振り返った。
スノーボードが好きだったという黒沼さんが出かける際、俊昭さんは頼まれて車で送った。その姿が最も記憶に残っているという。(山下寛久、伊藤和也)
■一連の経緯
2006年9月23日 川崎市宮前区のトンネルで黒沼由理さんが刺殺される
07年4月5日 同区の路上で女性会社員が刃物で刺される
20日 女性を刺した殺人未遂容疑で会社員の男を逮捕
08年7月14日 横浜地裁川崎支部で男に懲役10年判決
09年4月13日 東京高裁が検察側、弁護側双方の控訴を棄却
8月12日 最高裁が上告を棄却。その後、一、二審判決が確定