「辰野探検隊」隊長のヨッピーさん(左)と柿次郎さん=エルシーブイ提供
ホタルじゃない、「謎の猛毒昆虫」で売り込め――。辰野町が町をPRする動画の制作に乗り出した。その主役はスガレ。今月、「辰野探検隊」と銘打って、一般参加者とともに撮影を敢行する。
スガレとは何なのか。「このへんじゃ誰でも知ってるハチですよ。家庭で食べるんです」と話すのは、町まちづくり政策課の高津稔係長(43)。動画制作を仕掛けた中心人物だ。
中央アルプスと南アルプスに囲まれた町は人口2万人弱。面積の85%が森林で、6月に見られるゲンジボタルの幻想的な美しさから、「ホタルのまち」として知られている。
そんな町は、国の交付金を活用し、町のイメージアップにつながるPR動画をつくることにした。「これといった売りのない町の認知度を上げたい」(高津係長)との思いからだった。
地元のケーブルテレビ局などからいくつかの案が寄せられた。当然、ホタルを前面に押し出したものもあった。が、選考に参加した町の若手職員から多くの支持を集めたのが、スガレにスポットを当てるという案だった。
「猛毒昆虫という売り文句で人が来てくれるのか」という声もあった。しかし、町はスガレで動画をつくることに決めた。高津係長は「相当思い切った事業」と苦笑いしつつも、「インパクトがある。町を全国の人に知ってもらえるだけでも価値はある」と期待を込める。
予算は交付金から賄う分も含め約600万円。人気ウェブライターのヨッピーさんらを隊長とした探検隊が今月、秘境に生息するという謎の昆虫スガレを追う。隊員を募集したところ、全国の80人以上から応募があった。探検の様子を動画に編集、町長も出演して、今年度中に動画サイト「ユーチューブ」などで公開する計画だ。
それにしてもスガレの正体とは。地元で長年スガレを捕ってきた、名人の大久保巻彦さん(70)に教えてもらった。その正体は体長1・5センチほどのクロスズメバチ。地域によっては「ヘボ」と呼ぶこともある。巣の中にいる幼虫が珍味とされ、甘露煮などにして食べる。「マツタケとともに秋の旬の素材。ご飯に炊き込んでもおいしいぞ」
捕り方も独特だ。目印のついたエサをハチにくわえさせ、野山のなかを走って追いかけて、地中にある巣を見つける。秋になると、大の大人たちが巣を探し求めて、一喜一憂するのだとか。名人も1日30個の巣を捕ったことがあるという。
大久保さんは「しかし、スガレでPRになるんかね」。さて、名人をうならせる動画ができあがるか。(津田六平)