安倍晋三首相の5年間の政権運営を問う戦いが始まった。経済政策の実績を強調し、こだわり政策は封印する。首相の第一声は過去の国政選挙で大勝したパターンとほぼ同じだった。支持率低下をもたらした問題に触れないまま。野党はそこに照準を合わせて批判を展開した。
特集:2017衆院選
安倍首相は公示初日、自らが自民党総裁として臨んだ過去4回の国政選挙と同じく福島に入った。「(民主党政権では)なかなか復興が進まなかった。一日も早く政権を奪還すべきだ。これが私たちの原点。この原点を忘れてはならない」
緑の山々と刈り取り前の黄金色の稲穂。広がる田園地帯に約300人が集まった。公示前に首都圏で行った街頭演説で見られた首相批判のプラカードはなく、ヤジもなかった。
「政権奪還後、経済を成長させていこう、デフレを脱却し、生活を豊かにし、賃金を上げる。一つ一つ成果を上げてきた」
首相は北朝鮮対応に触れた後、国内総生産(GDP)や最低賃金などの経済指標について民主党政権時代と比較しながら、アベノミクスの「成果」を列挙。野党批判を挟み、最後もアベノミクスのアピールで締めくくった。21分余りの演説には、5年間の政権運営のパターンが凝縮されている。
民主党政権時代を振り返りながら「失政」を指摘し、アベノミクスを前面に押し出す。そこで得た議席を元に、選挙では訴えなかった特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈の変更、安全保障法制、「共謀罪」法といった「安倍カラー」の強い政策を進める。この日の第一声でも、首相が選挙に勝利した後に見据えている憲法9条の改正には、一切言及しなかった。
こうした首相の姿勢に、共に歩んできた公明党の山口那津男代表は一体感を強調する。第一声では、北朝鮮問題を引き合いに「国際経験豊かな安倍首相に問題を解決していただく」と述べ、自公連立政権の継続を訴えた。参院で統一会派を組む日本のこころの中野正志代表も「この危機を克服する能力、持っているのは安倍さん以外ない」と持ち上げ、政権運営を高く評価した。
政権運営に協力的な姿勢を取ってきた日本維新の会の松井一郎代表は、首相の個別政策で注文をつけた。首相が消費増税を予定通り行う考えを示していることを念頭に「国会議員が優遇・厚遇されている生ぬるい状態で消費増税をよしとすると国民生活はしんどくなるばかり」と訴えた。
これに対し、他の野党は、首相の政権運営を厳しく批判し、争点化を図っている。
立憲民主党の枝野幸男代表は、世論を二分した安保法制など「安倍カラー」の法律を採決強行で成立させた経過に触れ、「国民の大きな反対の声があっても、ろくな説明もしようとせず、『いま数を持っているから何をしてもいいのだ』と。これが本当の民主主義か」と声を張り上げた。
さらに森友・加計(かけ)学園については、首相が第一声でひと言も触れなかったのに対し、多くの野党党首が長期政権の「ゆがみ」と位置づけて、演説でも一定の時間を割いている。
希望の党の小池百合子代表は「お友達だ、忖度(そんたく)だって。お友達であれば何か良いことがある。そんな政治に信頼が持てるのか。一番大事なところ」と強調。共産党の志位和夫委員長も「最大の争点は、安倍暴走政治を続けて良いのか、にある。こんな国政私物化疑惑にまみれた政権は戦後かつてない」と指摘した。
社民党の吉田忠智党首は、野党が憲法に基づいて国会の召集要求をしたのに対し、臨時国会冒頭で解散した首相の姿勢を批判。「安倍政治を許すのか、許さないのかが問われる選挙だ」と訴えた。