神鋼神戸製鉄所の高炉=神戸市灘区
神戸製鋼所の製品データ改ざん問題に関連して、同社が神戸市灘区に建設を計画している石炭火力発電所の手続きが遅れる可能性が高まっている。製品の納入先の一部顧客には、改ざん発覚で生じた点検費用の請求など損害賠償請求の動きも出てきた。問題が拡大すれば、経営への影響も深刻さを増しかねない。
「確認がかなり遅れれば、(予定していた)来年1月に知事意見が出せない」。兵庫県の井戸敏三知事は16日の記者会見で、神鋼が進める石炭火力発電所計画の手続きが遅れる可能性を示唆した。
この計画は、同社の高炉跡地に石炭火力発電所2基(総出力130万キロワット)を増設するもの。2021年度の稼働を目指し、今月末に製鉄所の高炉解体をスタートする。つくった電気は関西電力に売る予定だ。
神鋼は、発電所計画で環境アセスメント(影響評価)の手続きを進めており、影響や対策をまとめた準備書を7月、経済産業省や県に提出した。
ところが、アセスの調査には、今回の不祥事で製品データを改ざんしていた子会社コベルコ科研(神戸市中央区)も関わっていた。
県は「神鋼のデータ全体の信頼性に疑いが生じた」として、今月16日と20日に予定していた審査会や公聴会を延期。ばい煙の排出量などのデータを再検証するため、近く、数値の根拠を示す追加資料などの提出を神鋼に求める方針だ。知事意見の提出が遅れれば、国の審査など全体のスケジュールにも影響しかねない。
不祥事の影響は、発電所計画だけにとどまらない。23日に会見した神鋼の梅原尚人副社長は、一部の取引先顧客に、部材の交換にかかる費用の請求や、材料を他社製に切り替える動きが出始めたと明らかにした。こうした動きの広がりについて、梅原氏は「現時点ではどの程度かわからない」としたが、損害賠償請求の動きが拡大すれば、経営には大きな打撃となる。
神鋼は新日鉄住金、JFEスチールに次ぐ国内3位の鉄鋼メーカーだ。ただ、粗鋼生産量は新日鉄の17%ほどに過ぎず、規模で及ばない分をアルミ・銅など特徴ある素材の生産や電力事業でカバーしてきた。電力は今経営の三本柱の一つに育っている。
財務面では2期連続の最終赤字が続いているが、多角化経営が軌道に乗り始め、「安定的に利益を出せるステージに入ってきた」(川崎博也会長兼社長)。今期は最終黒字を予想していただけに、今回の不祥事は、経営のカギを握る事業の先行きに冷や水を浴びせている。(清井聡、野口陽)