神奈川県座間市のアパートから遺体で見つかった9人の若者は、「自殺願望」をSNSへ投稿したことなどをきっかけに、事件に巻き込まれたとみられる。だが、多くは失踪する直前まで普段通り学校やアルバイトへ行き、家族とも接していた。悲劇を繰り返さないため、どうすればいいのか。
座間9遺体事件
「もしかしてあの子では、と頭をよぎる顔があった。ひとごとではない」
NPO法人「BOND(ボンド)プロジェクト」代表の橘ジュンさん(46)は事件を知り、数人の女性と連絡を取り、安全を確認した。若い女性の相談に乗って支援する活動を2009年から始め、現在は月にメールのやり取りが千件以上、電話も100件近く受ける。
「死にたい」「消えたい」といった相談も多い。「でも、気持ちには波がある。寂しい、分かってほしいという思いが強い」と橘さんは語る。「被害にあった女の子たちも同じような気持ちを抱き、つけ込まれてしまったのではないか。きれいごとではなく、本音を出せる場所や相手がもっと必要だ」と話す。
居場所のない少女らを支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」代表の仁藤夢乃さん(27)も「死にたい」とこぼす少女とよく接する。「なぜ、そこまで追い詰められたのかという背景に目を向ける必要がある。学校や家庭といった身近なところから、支えてくれる人を増やさなくてはいけない」と指摘する。
NPO法人「日本子どもソーシャルワーク協会」理事長の寺出寿美子さん(70)のスマートフォンにも「死んでしまいたい」などと、若者からメッセージが届く。大半は女性。引きこもりや虐待をめぐり、子どもの相談に乗ってきた寺出さんは「『生きていくのがつらい。分かってよ』というメッセージなんです」と言う。
周囲の大人から受け止められずに不安を感じ、ネット上でつらい「本音」をつぶやく。そこに温かい言葉が返ってくれば、「見知らぬ相手と会ってもいいかな」と心が傾いてしまう。死体遺棄容疑で逮捕された白石隆浩容疑者(27)は、ツイッターを通じて被害者らとやり取りし、「いっしょに死のう」などと、会う約束を取り付けていたとされる。
事件で犠牲になったのは小説好きの大学生や、漫画家を夢見た高校生。「彼女たちは決して、特別な存在ではない。事件になって表面化したが、多くの子どもたちは危険と隣り合わせで生きている。まずは大人が実態を知るべきだ」と寺出さんは訴える。(土居新平、峯俊一平 土居新平、峯俊一平)
若者にとって、SNSはなくてはならない存在だ。LINEが昨年、神奈川県の全県立高校の生徒ら約6万4千人に実施したアンケートでは約97%が自分専用のスマホを持ち、約98%がLINE、約82%がツイッターを利用していた。
SNSを通じて、子どもたちのつながりは広がっている。「ネットがきっかけで知り合った友人」の数を尋ねたところ、「いない」という生徒は約48%だったが、約13%が「51人以上」と答え、1割近くは「101人以上」だった。
一方、自分のネット利用を「危ない」と思っている生徒は少ない。「ネットを安全に使いこなしていると思うか」という質問に「そう思う」または「ややそう思う」と答えた生徒は約8割で、「思わない」の2%をはるかに上回った。ネット上のトラブルを研究する慶応大の田代光輝・特任准教授は「ネットのリスクに対する教育が不十分だ」と指摘する。
「SNSはマイナーな話題が好きな人、同じ思いを持つ人をつなぐ良い面もあれば、悪用されることもある。両刃(もろは)の剣だと分かった上で、利用する必要がある。スマホを持ち始める小6や中1から、学校などで使い方を教えるべきだ」と田代さんは話す。(土居新平、峯俊一平 土居新平、峯俊一平)
■若者向けの相談窓口
●BONDプロジェクト(10~20代の女性向け)
(相談用メールアドレス)hear@bondproject.jp
(HP)bondproject.jp/
●Colabo(女子中高生向け)
(相談用メールアドレス)info@colabo-official.net
(HP)www.colabo-official.net/
●日本子どもソーシャルワーク協会
(電話相談)03-5727-2133(平日の9:00~18:00)
(HP)www.jcsw.jp/