優勝を決め、ガッツポーズで喜ぶ明徳義塾の市川=柴田悠貴撮影
(14日、明治神宮大会決勝 明徳義塾4―0創成館)
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どうしても勝ちたい理由が、明徳義塾の選手たちにはあった。
「今までは監督の力で勝たせてもらってきた。今回は自分たちで引っ張って勝つ」。エースの市川は強い覚悟で連投のマウンドに上がった。
13日の準決勝後、選手たちは馬淵監督が涙を流しているのを見た。監督の母、中本アキさん(享年95)が大会中に亡くなっていた。
監督は選手たちに何も告げなかった。「勝負の世界に入れば、我々の立場では、そういうことを考えずにやった方がいい」
だが、周囲から伝え聞いた選手たちは前夜の宿舎で「優勝して監督を男にしよう」と誓い合った。
監督から「内角球の使い方」など、全国で勝てる投球術を教わった市川は、序盤からぐいぐい飛ばす。右足の内転筋を痛め、右手中指の爪が割れていても、関係ない。「疲れなんかないし、そんなこと気にしていたら負ける」
直球もスライダーも、今大会3試合目で一番の出来。高知県大会から数えて10試合目。秋の公式戦をひとりで投げ抜き、94球の4安打完封で締めくくった。
「子供たちには関係のないことですから」と最後まで気丈に振る舞った馬淵監督だが、こうも言った。「でも、考えてやってくれていたなら、うれしいですね」
アキさんには、東京へ発つ2日前に会ったのが最後。通夜にも、告別式にも参列はできなかった。その代わり、教え子たちの思いもこもった神宮制覇のウィニングボールを、墓前に届ける。(山口史朗)