花咲徳栄―広陵 九回表2死から登板した広陵の森=柴田悠貴撮影
(23日、高校野球 花咲徳栄14―4広陵)
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やっときた。4―14の九回表、2死走者なし。中盤からブルペンで肩をつくっていた広陵の森悠祐(ゆうすけ、2年)に、出番が回ってきた。
中井監督は森にひとこと、「全力で投げてこい」。投球練習が終わると、捕手の中村がマウンドに走ってきてくれた。「お前と組むのも最後やけ、全力で投げてこい」。森はあと1人のところで投げさせてくれる監督に感謝し、中村の言葉に感動して、「自分のすべてをぶつけて、中井先生や(中村)奨成(しょうせい)さんのためにも抑えてやろう」と決めた。
左打席に、この試合ここまで5打数3安打4打点と絶好調の3番西川。森は決意通り、思いっきり右腕を振った。140キロ台の直球を3球続け、カウント1―2と追い込んだ。そして4球目、外角のスライダーで見逃し三振にしとめた。
初めてやってきた甲子園。1回戦と準々決勝で、左の二枚看板である平元、山本の偉大な両先輩のあとで投げた。2度とも打たれて最後を締められず、残った防御率は45・00。だから、たった一つのアウトであっても、喜びは膨れあがった。試合後は負けた悔しさと、自分の力をやっと出せたうれしさの交じった涙が流れた。「いままで迷惑かけてばっかりでした。少しだけど、恩返しできてよかった」
新チームの屋台骨となる森だが、中井監督にこっぴどく叱られたことがある。1年の2学期の中間試験。英語、数学、物理で赤点をとった。赤点は練習停止が野球部のおきて。頭を五厘刈りにして、「階段ダッシュ」の日々。練習合流が許された日、中井監督に「次やったらメンバーはないぞ」と怒られた。「野球のために勉強を頑張る」と心を入れ替えた。次の期末テストからは、眠くても試験勉強を欠かさなかった。クラス内での順位が42人中最低で37位だったのが、最高で18位まで上がった。
平元、山本の両先輩にはよくしてもらった。広陵の練習は午後6時半に終わる。寮で夕食をとったあとが自主練習の時間だ。森はいつも平元に「来いや」と声をかけられ、一緒にシャドーピッチングなどに取り組んだ。甲子園期間中、大阪府池田市内の宿舎では山本と同部屋。そこへ平元もやってきて、3人でしゃべりながらテレビドラマを見た。尊敬し、大好きな先輩だった。「最後は打たれてしまったかもしれないですけど、2人は僕の中で日本一のピッチャーです」
さあ、広島に戻ったら新チームが始動する。「甲子園を経験した僕が、しっかりしないと。実戦の経験を積んで、完投、完封できるピッチャーになります」
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森君が広陵に入って一番びっくりしたのが、キャッチャー中村君の二塁送球だそうです。マウンドでしゃがんだ森君の目のあたりを「シーーーーーッ」という音で飛んでいく。「低すぎる。ワンバンする」と思ったら、そのままの軌道でショートのグラブに収まったそうです。その中村君が最後にかけてくれた言葉は、一生忘れないと言いました。「新チームでつらいことがあったり、ピンチになったら、奨成さんの言葉と三振を思い出すことにします」。初めての甲子園でいろんな経験をした森君の今後が、楽しみです。(篠原大輔)