全100巻で完結した「冷泉家時雨亭叢書」と冷泉為人理事長=22日、京都市上京区、小林一茂撮影
平安後期から鎌倉時代の歌人、藤原俊成(しゅんぜい)・定家(ていか)父子ゆかりの京都・冷泉家(れいぜいけ)が800年にわたり守り続けてきた歌書などの貴重な書物を写真撮影して複製した「冷泉家時雨亭叢書(しぐれていそうしょ)」(朝日新聞社刊)全100巻が、1992年の刊行開始から四半世紀を経て完結した。22日、編者の公益財団法人・冷泉家時雨亭文庫(冷泉為人〈ためひと〉理事長)が発表した。
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冷泉家には国宝5件、重要文化財48件を含む、平安後期以降の約2万点ともいわれる膨大な古典籍や文書が伝わる。叢書には、俊成自筆の歌論書「古来風躰抄(こらいふうていしょう)」や定家自筆の日記「明月記(めいげつき)」、定家が書き写した「古今和歌集」(いずれも国宝)など、平安~鎌倉期の書物を中心に計約650点を収めた。写真版での複製本は影印本(えいいんぼん)といわれ、筆遣いや加筆訂正の跡なども分かるのが特徴だ。
冷泉家は1980年、秘蔵の古文書を研究者らに公開することを決め、翌年、時雨亭文庫が設立された。さらに、設立時から支援してきた朝日新聞社が協力して、写真版複製本をつくることになり、92年11月の第1巻「古来風躰抄」から叢書の刊行が始まった。
当初は60巻を刊行する計画だったが、資料の整理が進む中で巻数が追加され、2009年の全84巻でいったん完結。しかしそこに入らなかった鎌倉後期の「清少納言集」の写本など、重要性が再確認された資料についても公開を求める声が出たため、14年から16巻の追加刊行を始めた。今月刊行の「百人一首 百人一首注 拾遺(しゅうい、三)」で全100巻が完結した。
22日に記者会見した冷泉家25代当主の冷泉理事長は「これらの典籍は800年間、和歌の家として続いてきた冷泉家の象徴であり、日本の歴史文化を象徴するものでもある。文化財防災の面でも、写真版によって原本に近い姿で公開されることには大きな意義がある」と話した。
近刊各巻は3万2400円。叢書に関する問い合わせは刊行委員会事務局(03・5541・8795)。(編集委員・今井邦彦)
冷泉家時雨亭叢書に収められた主な書物
「古来風躰抄(こらいふうていしょう)」(国宝)俊成自筆の歌論書
「拾遺愚草(しゅういぐそう)」(国宝)定家自筆の自選歌集
「明月記(めいげつき)」(国宝)定家自筆の日記
「古今和歌集(こきんわかしゅう)」(国宝)定家が筆写した勅選歌集
「後撰(ごせん)和歌集」(国宝)定家が筆写した勅選歌集
「続(しょく)後撰和歌集」(重要文化財)定家の子・為家(ためいえ)が筆写した勅選歌集
「伊勢物語 下」(重要文化財)定家筆本を鎌倉中期に筆写
「豊後国(ぶんごのくに)風土記」(重要文化財)鎌倉中期の現存最古の写本
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〈冷泉家〉 「千載和歌集」の選者で知られる藤原俊成(1114~1204)・「新古今和歌集」の選者で知られる定家(1162~1241)父子を「遠祖」とし、定家の孫・為相(ためすけ)を初代として現在まで25代続く旧家。和歌を家業とし、明治維新で皇室やほとんどの公家が東京へ転居する中、京都御苑のすぐ北にある屋敷に残り、敷地内の「御文庫(おぶんこ)」と呼ばれる土蔵に収められた多くの歌論書や歌集、典籍などを守り続けた。江戸中期に建てられた旧住宅も、現存する最古の公家屋敷として重要文化財に指定されている。