伊方原発3号機に運転差し止めの仮処分決定が出され、旗を掲げる弁護士たち=13日午後1時32分、広島市中区、上田幸一撮影
四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁(野々上友之裁判長)は13日、広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をした。阿蘇山(熊本県)が過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断した。原発の運転を禁じた司法判断は高裁では初めて。
申し立てたのは広島市、松山市の住民。広島地裁では運転差し止めの訴訟も続いており、決定は訴訟で異なる判断が出る可能性をふまえ、差し止めを来年9月30日までと限定した。
仮処分はただちに法的な拘束力を持ち、今後の司法手続きで覆らない限り運転はできない。伊方原発3号機は今年10月から定期検査のため停止中で、来年1月予定の再稼働ができない可能性が高まった。四電は広島高裁に保全異議申し立てと仮処分の執行停止の申し立てをする方針だ。
高裁は決定で、原発事故時に住民らに危険が及ばないかどうかについては、電力会社側に立証責任があるとの立場をとった。
大規模地震のリスクについて、決定は「四電の想定は不十分」とする住民側の主張を退けた。一方、伊方原発から約130キロ離れた阿蘇山など火山の影響を重視。現在の科学的知見によれば「阿蘇山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断できる証拠はない」とし160キロ先に到達した約9万年前の過去最大の噴火の規模を検討した。
その場合、四電の想定では火砕流が伊方原発の敷地内に到達する可能性が小さいとはいえず、同原発の立地が不適切だったと認定。この点で、東京電力福島第一原発事故後にできた新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理だったとし、「(住民の)生命身体に対する具体的危険が推認される」と述べた。
原発と火山の位置関係を重視した今回の決定は、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)や同玄海原発(佐賀県玄海町)など火山近くにある他の原発のリスクにも言及したといえ、今後の訴訟や仮処分に影響を与える可能性がある。
原発に対する仮処分をめぐっては、福井地裁が2015年4月、大津地裁が16年3月、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを決定したが、異議審や抗告審で取り消された。今回の決定について広島高裁で異議審が開かれる場合、別の裁判官たちが審理する。(小林圭)
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四国電力は、広島高裁(野々上友之裁判長)が13日、伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転を禁じる仮処分決定を出したことに対し、「当社の主張が認められなかったことは、極めて残念であり、到底承服できるものではありません」とのコメントを出した。速やかに異議申し立ての手続きをするという。
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〈四国電力伊方原発〉 愛媛県伊方町にある四国電力唯一の原子力発電所で、加圧水型軽水炉(PWR)の1~3号機がある。東京電力福島第一原発事故後に停止。1号機(出力56・6万キロワット)は廃炉に向けて作業中で、2号機(同)は再稼働に向けた審査の申請がされていない。3号機(出力89万キロワット)は昨年8月に再稼働したが、今年10月から定期検査のため運転を停止中。東西に細長い佐田岬半島の付け根付近にあり、重大事故時の住民避難が課題とされている。