転落事故のあった阪急上新庄駅。亡くなった上杉輝子さんはホームの下のくぼんだ待避スペースに一時避難したが、その後はねられたという=18日午後、大阪市東淀川区、多鹿ちなみ撮影
「母は以前からホームに柵がないと危ないと話していた。視覚障害者が線路に転落する事故はニュースで見てきたが、母がこんな目に遭うとは……」。大阪市東淀川区の阪急京都線上新庄駅で18日午前、上杉輝子さん(89)=大阪府豊中市=がホームから線路に転落、回送電車にはねられ死亡した事故。亡くなった上杉さんの長男(58)は悔しさをにじませた。
視覚障害の女性、ホームから転落し電車にはねられ死亡
長男によると、薬剤師だった上杉さんは大阪府豊中市内の自宅から月2回、バスや電車を乗り継ぎながら大阪市東淀川区の化学会社に1人で通勤していた。事故のあった上新庄駅は会社の最寄りだった。約3年前にいったん退職したが、その後、請われて再び勤めるようになったという。
右目は約30年前に緑内障の手術をして以降は見えにくくなり、光が感じられる程度。左目も約3年前に眼底出血で手術したが5メートルより先は見えない状態で、スーパーに買い物に行っても食材の見分けがつかなかったという。歩行の補助のために杖を使っていたが、長男は「太陽の光が目に入ると物が見えなくなるようだった。上新庄駅で柱にぶつかりそうになることもあったようだ」と振り返る。
近所の80代の女性によると、上杉さんは短歌や散歩が好きな活動的な女性だったという。「しっかりした人で『仕事を継いでくれる若い人がいないので私が行かないと』と話していた。残念です」と話した。
社会福祉法人「日本盲人会連合」(東京)の三宅隆情報部長は「普段慣れた駅でも方向感覚が狂うときがある。ホームに柵の設置が望まれるが、周囲の乗客は、危ない動きを見かけたら積極的に声をかけたり体をつかんだりして助けてほしい」と呼びかけている。