2年にわたり大阪府門真市の自宅マンションに妹の遺体を隠したとして、死体遺棄罪に問われた山口逸子(いつこ)被告(65)の判決が19日、大阪地裁であった。増尾崇(たかし)裁判官は「犯行は悪質だが反省し、更生を誓っている」とし、懲役1年6カ月執行猶予3年(求刑懲役1年6カ月)を言い渡した。
判決などによると、山口被告は2015年7月ごろ、3歳下の妹の遺体をプラスチックケースに入れ、玄関に放置し続けた。死因は不明だった。初公判で起訴内容を認め、「かわいそうなことをした。許されるなら私の手で供養したい」と涙をぬぐいながら語った。妹には知的障害があったという。
山口被告の自宅は近所でも有名な「ごみ屋敷」で、近隣から悪臭や害虫への苦情が出ていたという。1994年ごろから、母親と妹、弟のほか、自身の長男、次男と共に生活。弟と長男にも知的障害があり、山口被告は高齢の母親の介護に加え、家族の世話を一身に担っていた。2004年には次男、08年には母親、11年には弟が事故や病気で相次いで亡くなった。
弁護側は公判で、頼れる身内もなく、3年に及んだ次男の闘病生活の付き添いや、相次ぐ親族の死で心身ともに疲弊し、次第にごみをため込むようになったと主張。障害のある親族が近隣住民と度々トラブルを起こし、近所づきあいもなくなって社会から孤立し、疑心暗鬼になったとも指摘した。さらに、ごみだらけのマンションで妹が倒れて死んでいたことがわかれば「殺害を疑われる」と思い込み、埋葬せずに遺棄したと訴えていた。
門真市によると、妹の障害年金の受給に必要な現況届は14年以降、提出されなくなった。そのため、自宅訪問を続けていたが死亡に気づかなかったという。
山口被告は何度か小さくうなずきながら、判決に聴き入っていた。弁護人は「社会の中で健全な生活の再構築をはかるのが望ましく、執行猶予がついてよかった」と述べた。控訴しない方針という。(大貫聡子)
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〈岸恵美子・東邦大教授(公衆衛生看護学)の話〉 「ごみ屋敷」は生活破綻(はたん)の象徴であり、大切な人を亡くして自暴自棄になるなど、住人は何らかの困難を抱えている。誰にでも起きうる問題だ。社会から孤立し、行政の介入を強く拒む人も多い。大阪市や京都市など行政代執行できる条例を持つ自治体もあるが、基本的には粘り強く訪問を続け、信頼関係を築いて問題解決を目指す必要がある。