イラスト・五月女ケイ子
アイルランドのロックバンドU2が、外に向かって鋭いまなざしを放ち始めた――。音楽評論家の萩原健太さんは、12月発売の新作からバンドの大きな変化をかぎ取ります。一体何があったのでしょうか。
アイルランド出身の4人組ロックバンド、U2の新作「ソングス・オブ・エクスペリエンス」が全米アルバムチャート初登場1位に輝いた。1980年のデビュー以来、これが彼らにとって8作目の全米1位アルバム。80年代から2010年代まで、四つのディケイドにわたって全米1位に輝き続けたバンドは彼らが初だとか。長い歳月、メンバー変更もいっさいなしに4人一丸となって歩を進めるその存在感は圧倒的だ。
子供時代の記憶を核に編み上げられた前作「ソングス・オブ・イノセンス」(14年)と対をなす一枚。表題は18世紀英国の詩人、ウィリアム・ブレイクの詩集「無垢(むく)と経験の歌」に触発されたものだ。
両者はほぼ同時に制作が進められていたらしいが、続編の発表が大きく遅れた。14年秋、曲作りの面で多くを担うリードボーカルのボノが深刻な自転車の転倒事故で活動できなくなったという事情もあったようだが、何より英国がEU離脱を決め、米国でトランプ政権が発足するなど、近年世界規模で巻き起こる非グローバリゼーションの危険な兆候を受け、特に歌詞面で方向転換を迫られたのが大きかった。
アルバムは「ラヴ・イズ・オー…