日本企業関係者との新年会に出席した台湾の蔡英文総統(中央)=12日、台北、西本秀撮影
台湾で、東京電力福島第一原発の事故後から続く日本食品の輸入規制が解かれず、日台関係に微妙な影を投げかけている。中国が日中関係改善を背景に緩和へ動き始める中、台湾側からも懸念の声が出る。
福島など5県の食品販売を禁止 台北市議会が条例可決
12日、台北で開かれた日本企業関係者の新年会。就任以来、初めて出席した蔡英文(ツァイインウェン)総統を前に、日本の大使に当たる日本台湾交流協会台北事務所の沼田幹男代表があいさつした。
沼田氏は日台関係の好調さを評価しつつ「食品問題など解決できなかった問題もあり、中だるみというのが正直な感想だ」。苦言に蔡氏はぴくりと表情を変えたが、その後のあいさつではこの問題に直接言及せずに会場を後にした。
福島第一原発の事故からまもなく7年が経つのに、台湾が規制緩和に踏み切れない背景には世論がある。
民進党の蔡氏は一昨年の就任当初に緩和を模索したが、野党の国民党が強く抵抗。市民も年間約400万人が日本を訪れるほどなのに世論調査では6~7割が反対だ。台湾では近年、違法な添加物の混入事件などが続き、食の安全に敏感になっている事情もある。
打開には政治のリーダーシップが必要だが、蔡政権の支持率低迷や11月に統一地方選が控えることなどから決断は先送りされている。政権関係者は「科学的に判断されるべき問題が、政治問題になってしまった」と漏らす。
日本は1972年に台湾と断交したため、政権幹部が台湾を訪れることを控えてきた。それでも昨年3月、断交以来、最高位となる総務副大臣を台湾に派遣したのも、日本食品の安全を訴え規制緩和を促すことが狙いの一つだった。
そんな台湾を尻目に、中国政府は昨年12月、北京を訪れた自民党の二階俊博幹事長らに日本食品の規制緩和を議論していく意向を表明した。安倍政権と蔡政権は中国の圧力に向き合うためにも関係強化を進めてきたが、台湾の外交関係者は「決断が遅れると、台湾は日本にとって中国より優先度の低い存在になってしまう」と懸念する。(台北=西本秀)
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〈福島原発事故に伴う日本食品の禁輸〉 独自の禁輸措置をとるのは現時点で韓国、ロシア、シンガポールなど七つの国と地域。食品全般を禁輸にしているのは中国と台湾だけで、台湾は福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県、中国は10都県からの輸入を禁じている。韓国やロシア、シンガポール、マカオは水産物など、香港は乳製品などに規制対象を絞り込んでいる。