松浦鉄道・泉福寺駅近くの勝手踏切は、フェンスで封鎖された=2017年8月31日、長崎県佐世保市、岩田智博撮影
線路上の踏切ではない場所を住民が道路のように渡る「勝手踏切」が全国に少なくとも1万9千カ所ある。本来は線路に立ち入ることはできないが、生活道路の代わりとして黙認されてきた。渡っていた人がはねられる事故が近年相次ぎ、鉄道会社は徐々に封鎖を進めるが、課題も多い。
長崎県佐世保市の松浦鉄道(MR)・泉福寺駅からすぐ北に勝手踏切があった。両側には設置者が分からない階段があり、遮断機もない中、住民らは日常的に渡っていた。
ここで事故が起きたのは2016年10月のことだ。当時2歳の女児が列車にはねられ、一時重体になった。
事故の前から、住民たちは危険性を認識していた。西泉福寺公民館の江口敏夫館長(89)は「子どもや老人が足をとられたり、つまずいたりし、閉めた方がいいと言っていた」と振り返る。MRによると、列車が通過する直前に住民らが横断し、運転士が警笛を鳴らしたり非常ブレーキをかけたりしたこともあったという。
事故を受けたMRの動きは早かった。翌日以降、勝手踏切の廃止に同意するよう住民らに求めた。
江口さんは住民に対し、「近くの正式な踏切まで迂回(うかい)しても、大した距離じゃない。安全のためだ」と説得。線路に至る道路を所有する佐世保市との協議も進めた。昨年4月、立ち入らないよう、MRと佐世保市がフェンスを設置した。
中学2年の女子生徒(14)は「朝、通学で急いでいる時は使っていた。5分くらい時間が余計にかかるようになり、不便で面倒になった」と話すが、近所の主婦(70)は「こける恐怖もあり、危ないから通らなかった。封鎖は仕方がない」。
MRの井上弘秀常務は「『不便』との声はあったが、反対はなかった」と説明する。ただ、MRの線路上には今も勝手踏切が約250カ所ある。このうち、190カ所は線路ができる前から生活道路だったため、「同意なく閉鎖を進められない」という。長崎県平戸市には線路を横断しないと、住民がバス停から自宅まで行けない場所もある。
首都圏にも勝手踏切は…