「シカ踏切」の仕組み
野生のシカとの接触事故に頭を抱えていた近畿日本鉄道が、運行時間外にあえて線路を渡れるようにする「シカ踏切」を導入した。侵入しないように排除するのではなく、共存を目指したところ、事故は激減し、対策に光明が差してきた。効果の裏には、シカの目線で取り組んだ鉄道マンの「優しさ」があった。
「シカ踏切」は、線路脇に張った高さ約2メートルの獣害防止ネットの一部に幅20~50メートルの隙間を作る仕組み。シカは日中は移動しないため、事故は起きない。危険が高い早朝や夜間の運行時間帯だけ隙間に、シカが嫌がる超音波を発して侵入させないようにし、終電から始発までは発信しないで自由に線路内に入れるようにする。
これまでの鉄道各社の主なシカ対策は、侵入防止ロープや赤色LED灯の設置、野獣の糞尿(ふんにょう)をまくなど、線路から遠ざけようとするものだった。しかし、目立った効果はなく、国土交通省によると、シカなどの野生動物との接触事故が原因となった運休や30分以上の遅れは、昨年度に過去最多の613件(前年度比185件増)に上った。
特に山間部の路線を多く抱える近鉄は深刻で、シカとの接触事故は全線で2004年に57件だったのに対し、15年は約5倍の288件にまで増えた。
「またシカでダイヤが乱れた」。運転指令担当の同僚の嘆きを聞いた近鉄名古屋統括部電気課の匹田(ひきた)雄史さん(48)は15年秋、シカの実態を調べ始めた。線路を挟んだ両側に生息域を示す足跡やフンなどが見つかり、鉄分の補給で線路をなめる習性も確認した。
監視カメラには衝撃的な映像が…