干潮時刻の30分前を切ると、渦の勢いがさらに増したように見えた=徳島県鳴門市
時紀行
美しい渦潮とは――。兵庫県の淡路島と徳島県を隔てる鳴門海峡の代名詞を、科学的に解明する取り組みが進む。他に類を見ない現象として、世界に向けたアピールが加速する一方、豊かな海と人の営みは、共生が続いていく。
連載「時紀行」バックナンバー
(時紀行:時の余話)毎日違う渦、操船に熟練の技
潮がどうっと音を立て、北の播磨灘から南の紀伊水道へ流れ落ちていく。観潮船の吉田元大(もとひろ)船長(37)が「大きく揺れます」と呼びかける。白波が立つ渦が間近に迫る。手すりをつかむ手に力が入る。四国と淡路島を隔てる鳴門海峡の「渦潮」。春分が近づくと、絶好の観潮シーズンだ。
月と太陽の引力によって、幅約1・3キロの海峡を挟んで満潮と干潮が隣り合う不思議な現象が、ほぼ6時間ごとに起きる。潮位の差は、春や秋の大潮の時で最大1・5メートル。潮は高い側から低い側に流れ、時速20キロに達することも。水深80メートルを超すV字谷や深さ200メートルに達するくぼ地など海底の複雑な地形が、潮の緩急を生み、渦を生む。渦の直径は時には20メートルにもなる。壮大な自然のショーだ。
元大さんの父で、30年前に観潮船の運航を始めた「うずしお汽船」(徳島県鳴門市)の吉田元保(もとやす)さん(67)は「流れの速さは条件の一つで、風の影響も大きい」。南向きの潮流の時に向かい風が吹けば、渦の迫力が増すという。「とは言え、予想外のこともある。まだまだ奥が深い」
江戸期の作家・井原西鶴や浮世絵師・歌川広重らを驚かせ、古くから人々の好奇心をかき立ててきた絶景。徳島、兵庫両県は世界遺産登録に向けて動き出している。
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