震災から7年近く経つ被災地で、「落ち着きがない」「キレやすい」など、不安定な子どもが目立つとの報告が増えている。岩手医科大などのチームが岩手、宮城、福島3県で震災後の2011年度に生まれた子どもを調べたところ、3割超に情緒や行動上の問題がみられた。震災の記憶が直接なくても、地域や家庭が傷ついたことで、そこで育つ子どもに影響を与えたと専門家はみている。
11年度生まれの多くは今6歳。震災後の混乱期に乳幼児だった子どもたちだ。岩手医科大、みやぎ心のケアセンター、福島大などの精神科医らが、協力を申し出た沿岸自治体の保育所43カ所の223人について、12年間の予定で16年度から追跡調査を始めた。子どもの行動に関するチェックリストや専門的テストで発達特性を調べ、親や保育士にも質問をした。
16年度の調査によると、保育士らの観察では子どもの36・5%に、多動、攻撃性がある、ふさぎこみがちといった情緒や行動上の問題があった。一般的には1割程度とされるが、それよりも高い。子どもへのテストでは語彙(ごい)の遅れの傾向もみられた。
母親についても、子どもや自身の様子を聞くため面接をしたところ、36・5%の人に不安症やうつ傾向などの不調がみられた。そうした母親の場合、行動上の問題をかかえる子どもの割合はより高かったという。
沿岸部では震災後、避難所や仮設住宅住まいをした人が少なくない。生活環境も不安定だった。研究代表を務める岩手医科大の児童精神科医、八木淳子講師は「一概には言えないが、親が限界状態で忙殺されたり、母親が強いストレスを受けたりしたことが、子どもの成長発達に何らかの影響を与えたことは想像できる。相談先を増やすなど親の支援も必要」と話す。
保育園・幼稚園の人員増補助も
津波の被害が大きかった地域にある放課後児童クラブ。午後2時すぎ、小学校の授業を終えた子たちが次々やってきた。ランドセルをしまい、連絡帳を見せてから宿題をするのが決まりだが、それをせず動き回る子がいる。突然外へ出てゆく子、絵ばかり描き続ける子。約50人を4人の指導員がみるが、1、2年生中心に10人余り、「気になる子」がいるという。
宮城県気仙沼市のある保育所。5歳児クラス二十数人中、行動上の問題がある子が4人ほどいる。「妊娠中に震災を経験し、母親が精神面でダメージを受けた。忙しくて両親がぎくしゃくした家庭もある。それらが影響したかもしれない」と保育所長。保健師に巡回してもらうほか、保育士2人に加え、支援員2人を臨時に配し、目を離さぬようにした。
震災直後から各地で相談に乗ってきた宮城学院女子大の足立智昭教授(発達心理学)は、当初は直接怖い体験をしたことによる心の傷への対応が中心だったのが、様相が変わってきたという。「乳幼児期に家庭機能が低下し、安定した『愛着』が形成されなかったことが原因として考えられる」と述べ、「保育士や教師が子どもの発達特性や家庭環境を理解することと、人員加配などの支援もすべきだ」と指摘する。
「子の心の問題、家族ぐるみ地域ぐるみで」
関西学院大の井出浩教授(児童精神医学)は、阪神大震災の年(1995年)の神戸の3歳児健診受診者について5年後、アンケートをした。同様に落ち着きのない子が目立ったという。「被災地の子どもの心の問題は、家族ぐるみ地域ぐるみで、生活の安定が図られているかどうかに目を向けるべきだ」と話す。
行政も懸念を強める。宮城県は震災後に生まれた世代の心のケア対策を継続するよう、国に働きかけている。同県名取市は保育所や幼稚園の人員を増やすための補助制度を16年度から始めている。(編集委員・石橋英昭)