防災ガールの田中美咲さん=竹花徹朗撮影
世界では社会起業家の45%が女性といわれていますが、事業を展開する上で、女性であるがゆえの壁も少なくありません。女性の能力が、世界のさまざまな課題の解決にもっと生かされるように。メディアNPOスパークニュース(本部・パリ)は3月8日の国際女性デーに合わせ、朝日新聞を含む世界各国の21のメディアに呼びかけて、社会にインパクトを与える女性の社会起業家(Women in Businesses For Good:#WB4G)をテーマに記事を集めました。朝日新聞は、若い世代の防災意識を高める活動に取り組んでいる「防災ガール」の田中美咲さんを取材しました。
14歳で認知症の父を介護、経験もとに起業した女性
国際女性デー特集「Dear Girls」
2万人を超える死者(震災関連死を含む)・行方不明者を出した東日本大震災から2年となる2013年3月11日、田中美咲さん(29)は東京で「防災ガール」を立ち上げた。
悲しみを繰り返さないためには、従来の「やらされる」防災ではなく、同世代の若者が「やりたい」と思える防災、日常の中に自然なかたちで「ある」防災を提起したい――。その思いで、様々な試みを重ねてきた。20代の女性を中心に、これまでに活動に関わったメンバーは、男女130人を超える。
地震が起きた11年春に京都の大学を卒業し、東京のIT大手に入社。ゲーム開発を手がける傍ら、ボランティアとして被災地に足を運び、津波で畑に流れ込んだ魚を取り除いたり、床下の泥をかき出したりした。
「ユーザーからいかに多くのお金を巻き上げるかが勝負」というゲーム開発の仕事と、あまりに多くの人が涙を流し、それでも前に進もうともがいている被災地との落差。次第に「私は誰かを幸せにできているのだろうか」との疑問が膨らみ、1年半後に退職した。
被災者支援をする公益社団法人の職員になり、福島勤務を経て、再び東京へ。「面倒だし、ダサいし、いつも同じ。小さい頃から面白いと一度も思ったことがない」防災に、仕事として関わるようになった。
防災は大事。それは分かっている。でも、決められた時刻に決められた場所へ並んで移動するだけの避難訓練や、日常生活ではあまり食べたいと思えないような非常食を備蓄するといった従来型の防災では、どうにも心が躍らない。例えば、防災にファッションやITを掛け合わせたようなイベントをやってみたらどうだろう――。でも、復興庁などの後援を受け、税金を使ってやれることには限りがあった。
単に「楽しくないからやりたくない」というだけではない。「重要だから、という理由だけでは人は動かない」と感じていたからこそ、若者が楽しみながら主体的に取り組める防災のかたちを、本気で考えたい。そうして5年前、復興支援で知り合った同世代の仲間たちと任意団体「防災ガール」を設立した(15年に一般社団法人化)。
「ガール」としたのは、女性は災害弱者になりやすいことを被災地で目の当たりにしてきたから。そして、新しい防災のかたちを広めるには、いつも流行の発信源となる若い女性の心をつかむことが欠かせないと考えたからだ。
インターネットで資金を募り、ウェブサイトを作成。折りたためる丈夫なパンプス、かわいいデザインの災害ボランティア用ブーツ、東京・渋谷の3Dハザードマップをプリントしたバッグ、物干しロープやデンタルフロスなど様々な用途に使えるミサンガ……。企業とタッグを組み、普段から持ち歩いたり身につけたりできる、おしゃれなデザインのグッズの開発を手がけてきた。
「避難所に行きたくてたまらなくなる」ような避難訓練を考案し、渋谷や秋葉原の街なかで実施したこともある。参加者は、スマートフォンで所定のアプリを使いながら、時間内にどれだけ多くの災害時帰宅支援ステーションや避難所へ行けたかを競い合う。何のハプニングも起こらない従来型の訓練ではなく、今いる場所で、自らの判断で身の安全を守らなければならないというリアリティーと、他者と競い合うゲームの面白さを掛け合わせた。
いま注力しているのは、「#b…