ブレイディみかこさん
春まだ遠い英国に雪が降った。ホームレス支援の慈善団体に勤めている友人から電話がかかり、食料をカンパしに行った。悪天候のため、友人が働いている団体では、事務所や倉庫を開放してホームレスの人々の緊急シェルターにしている。
1965年生まれ。保育士・ライター。96年から英国在住。著書に「子どもたちの階級闘争」など。同書で新潮ドキュメント賞受賞。
「今年は本当に路上生活者が多いから、教会やカフェ、ナイトクラブのオーナーまで自分の店を開放して受け入れを行っている」と友人は言っていた。それでもまだ路上にいる人々のため、パトロール隊が出て、どこに行けばいいか案内して回っているそうだ。若いボランティアがリュックに食料を詰め、ポットにティーを入れて次から次に出ていく姿を見た。雪でカレッジや大学が休講になったので手伝いに来たと言っていた。英国には相互扶助の機動力がある。
こういう話はいま英国中にあり、ニュースで毎日のように報道されている。だが、他方では悲惨な話もある。先月、国会議事堂の最寄り駅である地下鉄のウェストミンスター駅で、路上生活者の遺体が発見された。亡くなったのはポルトガルからの移民だったと判明し、同国のレベロデソウザ大統領はこの事実を「非人道的」と公に批判した。ロンドンでは、年初の6週間だけで4人の路上生活者が亡くなっている。その1人となったポルトガル人男性は35歳の元モデルだった。
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2010年に保守党が政権を握って緊縮路線になって以来、路上生活者の数は69%増になった。昨年の総選挙で、メイ首相は22年までにその数を半減させ、27年にはゼロにすると公約した。だが、福祉予算が削られ続け、悪天候の緊急支援すら民間の善意に頼っている状態で、そんなことができるのだろうか。
路上生活者の増加が社会問題に…