本拠スタジアムの収容能力は1万5千人=DMM.com提供
ネット関連企業の「DMM.com」がサッカーのベルギー1部リーグ、シントトロイデンの経営権を取得した。日本企業が欧州に乗り込んでクラブ経営に直接携わるのは極めて珍しい。将来的に日本から選手、指導者を受け入れ、欧州への窓口としての役割を担うことも期待されている。
同社は6月にクラブの株式約20%を獲得し、交渉を開始。最終的に、一部のサポーターが保有する分を除く約99・9%まで保有割合を引き上げて、12月1日からクラブ経営をスタートさせた。
同社の取締役で、クラブのチェアマンに就いた村中悠介氏は「いきなり経営陣を入れ替えるとか、大金を投じて選手補強に走るような変化は考えていない。しかし、改善すべき分野は数多い」と地元に配慮しながら、徐々に見直しを進める考えを示している。
シントトロイデンはベルギー1部リーグの中堅クラブで年間予算は約15億円。J2の平均(約13億円)とほぼ同じ規模になる。今季は上位につけており、来季の欧州チャンピオンズ・リーグ、欧州リーグの出場を狙える位置にいる。新体制となったクラブは「まずは国内リーグでの上位定着」を目標に掲げた。
DMM社が新規事業としてベルギーリーグに目を着けたのは、外国人枠の制限がなく、日本選手でも活躍が期待できるレベルであることだった。複数クラブと交渉を進めるなかで、シントトロイデンには「経営面で伸びしろを感じた」と村中氏は話している。
日本の選手、指導者受け入れも
現在の本拠スタジアムは1万5千人収容だが、平均入場者数は7千人前後。1万7千人収容に増やす改修計画があり、経営面では観客動員アップが当面の課題になる。チケット販売のうち約34%がいまだに店頭での対面販売で、オンラインでの販売拡大が急がれる。
一方、村中氏が「これまで戦略がなかった」と指摘するのが、プロであるトップチームとユースまでの育成下部組織がつながっていない点だ。それぞれの間でコミュニケーションがなく、どんな選手を育成してトップに上げるのか、という方向性も人材の流れもなかった。
また、ベルギーリーグ自体がアフリカから大量の選手を受け入れて育てて、主要国リーグに移籍させる位置づけにあるなか、施設や教育を受けさせる態勢が未整備のままだった。
手を着けるべき部門は多いが、村中氏は「それだけにやりがいがある。クラブ経営への挑戦というよりは、街づくりへの挑戦。地方創生を、日本人がベルギーで取り組んでいる感じ」と話す。地元自治体や住民を巻き込む必要性を感じており、Jリーグのノウハウを持ち込むようなケースも想定されている。
将来的には、日本から選手の移籍だけでなく、資格問題が障壁となっている指導者が欧州で活動するために、シントトロイデンへの進出がそのきっかけになる可能性もありそうだ。(潮智史)