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球児の試合前挨拶、ルーツは仙台 野球反対論への対抗策

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昨年の99回大会、仙台育英(手前)と広陵の試合後の挨拶=2017年8月20日、阪神甲子園球場


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全国高校野球選手権大会は今夏、100回記念大会を迎える。試合前、両チームが向かい合って並び、審判団とともに脱帽し一礼するのが、第1回大会以来おなじみの光景だ。この「試合前(後)挨拶(あいさつ)」のルーツが仙台にあることを、地元の野球史家・伊藤正浩さん(45)が確かめた。


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試合前挨拶を提唱したのは、東北大の前身の一つ、旧制第二高校だった。話は1911(明治44)年にさかのぼる。


仙台市青葉区の二高グラウンドで、11月3日から3日間、同校主催による第1回東北六県中等学校野球大会が開かれた。旧制仙台一中、仙台二中、盛岡中など6校が参加。伊藤さんによれば試合前挨拶は、このとき最初に行われたという。


二高は、明治中期に米国人教師が野球を伝え、当時は東北の野球普及の中心的存在だった。伊藤さんは様々な資料をあたり、二高野球部マネジャーだった三鬼隆(後に八幡製鉄社長)や応援団長の前田亀千代(同・京都弁護士会長)が、この大会で試合前挨拶を始めたと証言しているのを、古い回想録やOB会誌の中に見つけた。


では、どんな背景で始まったのだろう。


日本ではそのころ、学生の間で盛んになっていた野球を巡り、勉学がおろそかになり堕落する、成長にもよくない、といった反対論が起きていた。


東京朝日新聞は1911年8~9月、「野球と其(その)害毒」と題する連載記事を掲載。東京の一高校長だった新渡戸稲造が「野球は賤技なり」「相手を常にペテンにかけよう、塁を盗もうなど、神経を鋭くしてやる遊びである」と述べ、学習院院長の乃木希典が「馬術、弓術、柔道などは奨励するが、野球は必要ならざる遊戯。対校試合を禁止した」と語るなど、反対キャンペーンを繰り広げた。


こうした中、大会開催に奔走していた二高野球部員は、学生野球の健全さをアピールしようと腐心したらしい。「礼に始まり礼に終わる武道の美徳を、野球に持ち込もうと思いついた」と、伊藤さんはみる。


仙台の中等学校大会のひと月後、二高は京都で開かれた旧制高校の全国大会に出場。ここでも同校は試合前挨拶を提案し、実現させている。4年後の15年には大阪朝日新聞社が初めて開いた全国中等学校優勝野球大会(現在の夏の甲子園大会)が採用。「高校野球百年」(時事通信社)によると、理由は「本大会は職業化したアメリカ野球の直訳ではなく、武士道的精神を基調とし、心身の鍛錬を目的として行うものであるから」だったという。


その後、甲子園から全国に広がり、現在では大学野球を含むアマチュア野球の日本独特のスタイルとして定着。仙台で始まった時は試合前だけだったとみられるが、試合後も加わっている。


仙台在住の伊藤さんは中学で野球を経験。会社勤めのかたわら、史料をコツコツ集める在野の研究者だ。「昔から仙台は野球が盛んで、全国に広がるような習慣も残していた。現在・過去・未来を結ぶものとして地域の野球史を伝えたい」と話している。(編集委員・石橋英昭)



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