公務員や教育者の国民投票運動
教えて!憲法 国民投票:5
憲法改正案への賛成や反対をよびかける国民投票運動は原則、だれでも自由にできる。ただ、無制限に認めると、逆に個人の自由な意見表明が妨げられたり、国民投票が公正におこなわれなかったりするおそれもある。そこで、公務員など一部の人には、運動に一定の制約がかけられた。
特集:教えて!憲法
国民投票法では、国民投票運動がいっさい禁じられる「特定公務員」として次の6種が指定されている。
①中央選挙管理会と選挙管理委員会の委員・職員②国会に設けられる国民投票広報協議会の事務局職員③裁判官④検察官⑤公安委員会の委員⑥警察官
①と②は国民投票の管理や執行を担う人たち。③~⑥は国民投票での違反行為を取り締まったり司法判断をしたりする人たちだ。当事者性が強く、一般の人がもちえない強制力や影響力があるため、公正性の観点から全面禁止はやむをえないと判断された。ほかに投票管理者や開票管理者も担当区域内での運動が禁じられた。
ふだんの選挙と同じように、違反した場合の罰則がある。選挙運動では会計検査官や税務署の職員らも禁止されているが、国民投票では対象外とされた。
では、一般の公務員はどうだろうか。主権者として、国民投票運動は自由にできる。だが、公務員と私立学校を含む教育者には、その地位を利用した運動が禁止されている。
たとえば、補助金の交付や許認可の権限をもつ公務員が業者や団体の関係者に対して権限を利用して投票を働きかける。教師がPTAの会議で保護者に対して勧誘する。教授がキャンパス内で担当する学生に勧誘する――こうした場合は地位利用にあたると思われる、と国民投票法の審議段階で例示された。
ただし、選挙の場合と違って罰則はない。議論を萎縮させないためだ。公務員や公立学校の教員は、信用を落としたなどとして懲戒処分の対象にはなりうる。
国民投票運動ではなく、改憲案への賛否などの意見表明なら、さきに挙げた特定公務員も含めてだれでも自由だ。一方、公務員は全体の奉仕者として政治的中立を求められ、選挙運動を含む政治的行為が地方公務員法などでこまかく禁じられている。そのため両者の線引きが問題となる。
たとえば、「私は9条改憲に賛成です」とSNSで不特定多数によびかけるのは自由だが、特定の政党や議員への投票を働きかける内容が含まれていると、単なる意見表明ではなくなり、違法のおそれがある。
何が「地位利用」や「政治的行為」にあたるのか。実際に国民投票となれば初めてのことでもあり、明確に認定するのがむずかしいグレーゾーンが生じそうだ。規制や取り締まりが強まれば国民投票運動の萎縮を生み、活発な議論の妨げになると懸念する声もある。(石川智也)
◇
〈公務員の国民投票運動〉 一般公務員の国民投票運動は2014年の国民投票法の改正で内容が整理され、明確に認められた。100条の2で、「国民投票運動及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。ただし、政治的行為禁止規定により禁止されている他の政治的行為を伴う場合は、この限りでない」と明記された。
この改正時に、自民党などは公務員が加入する労働組合による組織的運動を規制しようとした。野党の反対で実現しなかったものの、改正法の付則には「組織により行われる勧誘運動、署名運動及び示威運動の公務員による企画、主宰及び指導並びにこれらに類する行為に対する規制の在り方」について検討するように書かれている。