朝日新聞デジタルのアンケート
フェイクニュースの問題は、メディアの報道に対しても指摘されています。朝日新聞デジタルのアンケートでも、報道の正確性や中立性に対する疑問の声が寄せられました。メディアはこうした指摘に、どう向き合っていけばよいのでしょう。
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反論にも耐える記事を
アンケートに寄せられた意見の一部を紹介します。
●「昔はメディアの信用性など疑う余地が無かった。昨今ネット普及により色々な現場や会見などをライブを一から十まで見ることができシンプルに事の顚末(てんまつ)を知る機会が増えた。私のような個人もマスコミ関係者と同じ物が少しは垣間見えることでマスコミの思想やコメンテーターの意見にあまり左右されることがなく、自分で判断ができるようになった。その結果、メディア自身の偏り、伝えない事実、報道と自分の目で見た物の相違が明らかになり、それがとても残念に思うことが多々ある。メディアにはこういう見てる側の目がたくさんあるということに気付いてもらいたい。どんな小さい誤認が生じても、紙面で大きく訂正を入れてもらいたい」(愛知県・40代女性)
●「新聞のように特に高い信頼が求められるはずの媒体で、信頼が落ちているのが問題。まずは全ての記事を署名記事にし、記者(または担当チーム)のメールアドレスも記載した上で、反論にも耐える記事を作るべきだ」(愛知県・30代男性)
●「現在特にネット上のフェイクニュースがひどいことになっているが、なんだかんだ新聞やテレビの誤報もやり玉に挙げられています。新聞やテレビの信頼を回復するために、誤報をしてしまったら例えば新聞なら一面で訂正するなど、きちんと誠意を見せる必要があると思います。そうすれば、ネットしか見ない層が戻って来るだろうし、彼ら彼女らも事実確認の大切さを理解してくれると思います」(京都府・20代男性)
●「ファクトチェック欄を作り、紙の紙面にも週一程度で反映させる。ファクトチェック文化を作る」(東京都・60代女性)
●「既存メディアは偏向報道で、うそつきのプロパガンダだと言いながら、全く根拠のないネット上のフェイクニュースを拡散したりしている人が多い。結局自分の気持ちよいニュースを選んで、気に入らない他者を攻撃したいだけ。これに対抗するには、意見が対立している既存メディアがあえて手を組んで、共同でファクトチェックをしていく必要があると思う」(新潟県・30代男性)
●「そもそもとして、新聞、ニュース、SNS、etc…多岐にわたる情報源であふれる現代社会で、特定の情報しか見ようとせず(主に自分と同じ考え)、意見の異なるものを排除、攻撃していることがダメなのだと感じます。すべての情報源は私からすれば中道でなく、どちらかの思想に傾いています。ニュースや記事、SNSなど尺が限られている物ならばなにかが欠けて伝えられているのが当然です。むしろ中道なものを見たことありません。答えを提示する情報は役に立ちません。考え、自分で答えを導くことこそが国民の責務であると私は思います。故に、フェイクニュースなどそもそも問題ありません。考えることをやめることこそが悪です」(石川県・30代男性)
●「様々な物事のスピードが上がっている時代ではありますが、一つ一つのニュース・意見に対して時間をかけて向き合う習慣を身に付ける必要があると思います。そうすることで、そこに書かれていることの何が問題か、何が矛盾しているかといったことを見抜けるのではないでしょうか。またそうした作業は、慣れてくればスピードが上がるものなので、現代にあっても十分有用な方法だと思います」(東京都・20代男性)
●「とにもかくにもメディア自身が自らを省みる姿勢が重要と思います。ファクトはファクト。意見は意見。大小メディア問わず、これらを混同して報道してないでしょうか?公正、フェアに事実を出して、その上で自身の意見を述べるメディアが少なくなって来ているように感じます。『角度を付けて』前のめりに報じるなんてメディアの自滅行為と思います。まあ、これが分からないメディアは自然淘汰(とうた)されるので問題ないと思いますが。。。」(大阪府・30代男性)
●「極端で違和感を覚えたり、一部のグループにあまりにも有益で偏った内容の記事はうのみにせず、まずは他のしっかりした報道機関に同じような記事があるかをチェック。更にニュースソースを可能な限りチェック、その上で掲載されているサイトの傾向を確認して判断するようにしているが、それでも引っかかることがある。もう詐欺電話や詐欺サイトと同じで、個々人で気をつけるしかないと思う。いずれにしても報道機関の責任あるファクトチェックは必須だと思う。頑張ってほしい」(海外・50代女性)
「伝統メディアにも内在」
メディアを見る目が厳しさを増す中、世界の新聞社、放送局のオンブズマンやパブリックエディター、メディア研究者らが「フェイクニュース」をテーマに議論した国際会議を取材しました。
インド・チェンナイで昨秋開かれた国際組織「ニュースオンブズマン協会」の年次総会。欧州や北米、南米、南アジアなどから36人が集まりました。まずは英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所のラスムス・クレイス・ニールセン氏が最新の調査結果に基づき、「人々が何をフェイクニュースだと考えているか」について報告しました。英国、米国、フィンランドなどで聞いたところ、不正確な報道、表面的な報道、ミスリーディングな報道――こうしたいわば「貧弱な」ジャーナリズムを、人々はフェイクニュースととらえていたそうです。例えば、政治家の発言について、その真偽を問うことなく報じるのもそれに当たります。「メディアが『政治家がそう言ったのは事実だ』といっても、読者はそうは受け取りません」
また、メディアは「ニュース」と「オピニオン」を分けて報じているつもりでも、読者は必ずしもそうは見ない、とも指摘しました。「この意見は偏っている。エビデンスがない。そう感じると、人はそれをフェイクニュースだと考えます」
ニールセン氏は、フェイクニュースは伝統的なメディアにも内在する問題だと指摘しました。「どの国でもフェイクニュースは程度問題だと考えられています。世界は真実とうそだけできれいに成り立っているわけではないということです」
こうした状況で信頼を得るにはどうすればいいのでしょう。ニールセン氏は、「メディアが限られた予算と時間の中で、また関係者が様々な圧力をかけてくる中で、真実を追い求めるのがどういうことなのか、読者はよく知っているわけではありません」といい、ジャーナリストの仕事をもっと知ってもらうことが大切だと述べました。
フェイクニュースへの法的な規制については、「言論統制につながる危険もあります。病気を治そうとしてかえって状況を悪くすることもある。注意が必要です」と慎重な姿勢を示しました。
「両論併記」は中立なのか?
議論に時間が割かれたテーマが「誤った両論併記」でした。まずネパールの英字紙「ネパール・タイムズ」のクンダ・ディキシット編集長が、地球温暖化報道について報告しました。バランスをとろうと懐疑論者らの意見を紹介することにとらわれたため、懐疑論が増幅され、地球温暖化に対処するための取り組みが遅れたと指摘しました。「どこのジャーナリズムスクールも中立や公平を旗印にしていますが、ジャーナリズムには“偏見”も必要なのです」
豪州の放送局ABCの編集幹部マーク・マーレイ氏は、同国で大きな議論になった同性婚の合法化をめぐる報道を紹介しました。同性婚に反対する人たちから「左寄り」と見られて「ゲイビーシー」と揶揄(やゆ)されていた同局は、ディベート番組で賛成派と反対派の両方に同じだけの時間を割くなど、公平性にはひときわ気を配ったといいます。ただ、マーレイ氏は「時間が同じでも、中身で(質を)変えることはできる」とも語りました。
質疑応答では、「メディアは活動家ではない。そうなったら終わりだ」と、偏りを危惧する声も出ました。ネパール・タイムズのディキシット氏はこう答えました。「私も全く活動家になるつもりはない。ただ、実際には意見を持っているにもかかわらず、両論併記で中立を装うのは、読者に対するごまかしなのではないかと思うのです」。会場からは「両論併記に気を配りすぎると、結局は政府や男性、都市に住む人、金持ちなど力のある方を利することになるのではないか」との意見も出た。(田玉恵美)
ネットの批評にさらされ 鍛えられる
「フェイクニュース」をめぐる2回のアンケートで、朝日新聞をはじめとした既存メディアへの厳しいご意見をたくさんいただきました。
アンケートに付けた解説や1日付のシリーズ1回目の紙面で、豪州や英国の辞典による定義を引き、「政治目的や広告収入目的でサイトから流される偽情報やデマ」「ニュース報道に見せかけて拡散される虚偽情報」という意味でのフェイクニュースを取り上げたいとお伝えしましたが、「新聞もテレビも信用できない」「自分たちが正しい報道をしている認識は捨てるべきだ」といった声が多く寄せられました。真剣に受け止めています。
公益財団法人「新聞通信調査会」が昨年、全国の18歳以上5千人を対象に行った調査で、インターネットでニュースを「見ている」人の割合が新聞の朝刊を「読んでいる」と答えた人の割合を初めて上回りました。毎年の同調査で、新聞やテレビの信頼度は漸減傾向にあります。
ネットを通じて様々な情報を入手でき、誰もが世界に発信できる時代です。メディア発の情報もすぐに様々な角度から検証されます。メディアがいわば情報を独占していた時代は終わりました。私たち既存メディアの報道もネットの批評にさらされてこそ鍛えられる。そんな時代になったのだと、前向きに捉えたいと思います。
一方で、私たちのアンケートではフェイクニュースの問題として「ニュースが信頼できなくなる」「情報の真偽がわからなくなる」が半数を超え、対処法としては「利用者へのリテラシー教育」「メディアなどによるファクトチェック」で6割近くを占め、メディアの役割は増していると考えます。
フォーラム面は、慰安婦報道の記事取り消しなど一連の問題を受けて2015年春に「朝日新聞に対する異論・反論を含め、多様な見方・主張を掲載する」場としてスタートしました。今後さらに多様なご意見をいただき、「ともに考え、ともにつくる」メディアを目指します。(フォーラム編集長・菅野俊秀)
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