1945年の敗戦から、昭和、平成と時代は移り、来年には新たな元号も制定されます。そんな中、70年以上もの間、まったく変わっていないものがあります。それが日本国憲法です。
特集:憲法
安倍晋三首相は再び政権の座についた2012年末から、この憲法を変えようと訴えています。憲法はなぜ長い間変わらなかったのか、安倍首相はなぜいま変えようとしているのでしょうか。
「国の最高法規」と言われる憲法は、「だれもが生まれながらに持っている、人間が人間らしく生きる権利」、つまり基本的人権を守るための原則や、国会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)などによって国を運営する仕組みを定めていますが、法律とは大きく違う点があります。
例えば刑法では人を傷つけたり、人から物を盗んだりしてはいけないと決められていて、違反すれば罰せられます。このように国民が守るべきルールが定められているのが法律です。
国が守るルール
これに対して憲法は、国が守らなければならないルールです。国は憲法に違反する法律をつくることはできません。
最高法規である憲法を簡単に変えることができると、国の運営が不安定になったり、国民の人権が十分に保障されなくなったりしてしまう心配が出てきます。そのため、ほとんどの国では憲法を改正するには、法律の制定や改正よりも厳しい条件を課しています。
日本では衆参両院の3分の2以上の議員が賛成したうえで、国民投票で過半数の承認が得られなければ憲法は改正できません。戦後、米国で6回、フランスで27回、ドイツでは59回の改正が行われました。一方、日本では一度もありません。この高いハードルが、いままで憲法が改正されてこなかった理由のひとつです。
9条の支持根強く
もうひとつの理由は、憲法の平和主義が多くの国民に支持されてきたことです。
日本はかつての軍国主義が悲惨な戦争を起こしました。その反省から、9条によって戦争をしないこと、戦力を持たないことを定めました。それでも日本は国民の生命や安全を守るために自衛隊を持ち、日米安全保障条約をもとに米軍と共同で他国からの脅威に備えています。
9条の平和主義があったからこそ70年以上戦争がなかったのだと多くの国民に支持されてきたことも、憲法を守ろうという意識につながっています。
これまで自民党政権は、軍事上の制約がある自衛隊ではなく、他国と同じような活動ができる軍を持つために9条改正をめざしてきました。また、いまの憲法の原案は敗戦後に日本に駐留した占領軍によって書かれた「押し付け憲法」だとの不満もあります。これが、安倍首相が憲法改正を訴える狙いです。
ただ、首相のこうした訴えには反対の声も強く、憲法改正論議がこれからどう進んでいくかは見通せません。(編集委員・国分高史)