書店や喫茶店、イベントスペースなどがある「神保町ブックセンター with Iwanami Books」が4月、東京都千代田区にオープンした。閉店した「岩波ブックセンター」の跡地に開設。読書離れが進む中、本の街・神保町で人と書物をつなぐ機能が期待されている。
開放的な空間の店内に入ると、右に喫茶店の厨房(ちゅうぼう)があり、正面にはソファや書架が広がる。書架にあるのは岩波書店の出版物のみ。新書や文庫から、全集まで約9千点が並ぶ。
開業前日のイベントに登壇した岩波書店の岡本厚社長は「日本社会の知的基盤を提供してきた」と岩波創業からの100余年を振り返った。しかし、若年層を中心に教養離れは続いており、岩波を知の象徴とみなす往時の雰囲気は、ない。
神保町の街並みも変わった。三省堂書店神保町本店の松下恒夫副本店長によると、チェーンの飲食店やドラッグストアが増え、「独自性がなくなりつつある」。古書店の中には神保町を倉庫として利用し、実店舗を構えない店もある。近くには大学も複数あるが、新年度などの教科書の購入が必要な時期以外で、大学生を見かける機会は少なくなったという。
本や書店を取り巻く環境も厳しさを増している。出版科学研究所によると、書籍と雑誌をあわせた出版物推定販売金額は、1997年の約2兆6千億円から2017年は約1兆4千億円にまで減少。アルメディアの調べによると、書店数は昨年に1万2526店となり、00年に比べ4割以上減った。
1981年からこの地にあった岩波ブックセンターは2016年に閉店。新ブックセンターはまちづくりなどを手がけてきたUDSが運営する。中川敬文社長は「岩波をハードルが高いとみなす人もいるし、若い人の多くは、認識さえしていない。接点を増やしていきたい」。独創性を生かした収益モデルを構築したり、新たな客層を生み出したりすることをめざし、イベントスペースも備える複合施設になった。
中川社長は新ブックセンターの意義を、「シンプルな内装で本が引き立つようにした。それが最大のインテリアで、訴求力もある。岩波の知的なコンテンツと神保町という街を組み合わせ、本と人との交流拠点にしたい」と強調する。(岩田智博)