月探査機「嫦娥5号」に搭載され月で23日の旅をした後、「航聚香絲苗」と呼ばれる重さ約40グラムの稲の種子が帰還モジュールと共に無事に着陸した。これは中国の稲育種が初めて深宇宙における突然変異誘発実験を完了したことを意味し、画期的な意義を持つ。科技日報が伝えた。
国家月探査・宇宙事業センターは2020年の年末、北京市で嫦娥5号搭載種子引き渡しセレモニーを行った。この月を旅した稲の種子は華南農業大学国家植物宇宙育種工程技術研究センター(以下「同センター」)のものだ。2020年12月28日に同センターを取材したところ、一部の種子がすでに発芽していた。科学研究者は今後の研究の準備を進めている。
中国は世界で初めて宇宙技術を利用し作物の突然変異誘発育種を行った国だ。宇宙育種の原理は実際には複雑ではない。宇宙環境には高真空、微小重力、弱磁場、複雑な放射といった特徴がある。宇宙放射線の複雑な高エネルギー重イオンが生物細胞に衝突し、遺伝子変異を誘発させ、新たな性状を取得できる。
同センターの郭涛副センター長は「変異は種の進化の基礎であり、新品種の育成の重要手段でもある。深宇宙の過酷な環境は極めて独特な突然変異誘発要素であり、これは新品種の育成にとって非常に重要だ」と述べた。
郭氏はさらに「稲は遺伝学研究のモデル生物だ。稲を選び深宇宙で種の進化を研究することは、深宇宙環境の遺伝効果への理解に役立つだけでなく、得られた優良変異を稲の品種の育成に応用することで農業生産水準を高めることができる」と説明した。
郭氏は「今回搭載された稲の種子は23日近くの飛行を経て、近月周回軌道で長期間にわたり深宇宙の独特で過酷な環境における放射の影響を受けた。またヴァン・アレン帯、太陽フレアが発生した。宇宙航行の距離の長さ、置かれた宇宙環境の複雑さはいずれも得難いものだった。今回の搭載実験はより強い遺伝効果を生む見通しだ。これは深宇宙とこれまでの近地球周回軌道との間の遺伝効果の差を模索するのに役立ち、宇宙育種・変異法則に関する研究の掘り下げに重要な実験サンプルとデータを提供している」と話した。
郭氏は「搭載は一歩目に過ぎない。今後はこれらの稲の種子の一連の自種もしくは異種交配を行う。科学研究者は耐病虫害性、ストレス耐性、機械化生産適応性などの面から、未来の需要に適した優れた稲の新品種を育成する」と述べた。
郭氏によると、今回の深宇宙変異誘発実験により、▽人類は稲の深宇宙環境に反応する分子及び遺伝メカニズムへの理解を深めるのに役立つ▽重要な価値を持つ高品質新型遺伝子を取得し、稲の品種の育成に寄与する整った重要遺伝子利用技術体系を形成する▽高生産量、高品質の、各種耐性を持つグリーンな稲の新品種を育成し、多様な産業の需要を満たす見込みだ。(編集YF)
「人民網日本語版」2021年1月6日