グラウンドで言葉を交わす中京大中京の山田希(左)と山沢和真=名古屋市昭和区、高岡佐也子撮影
しまっていこー 中京大中京
春の愛知県大会2回戦で、公立の進学校にコールド負けを喫した中京大中京。夏のシード権を逃したこの試合の翌々日、夏へ向けたチーム編成が選手たちに知らされた。ここで、明暗が分かれた選手たちがいた。
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同校には、主にベンチ入りメンバーで構成されるAチームと、それ以外のBチームがある。練習メニューは別々で、春の大会後にBチームに入ると、夏の背番号をもらえる可能性は極めて低くなる。メンバーはホワイトボードに張り出され、選手たちは自分の名前がどちらにあるか確認する。
春の県大会で背番号「18」を着けていた山沢和真(3年)の名前は大会後、Bチームのボードに移っていた。公式戦に出たのは2年秋の地区予選で、たった一度の代打だけ。春の大会は出場機会がなかった。
進学を希望する生徒が学ぶ一般クラスに入り、「毎日が勝負だった」という山沢。何度もAチームとBチームを行き来したが、今回はさすがに落ち込んだ。3年生にとって、この時期にBチームに入るということは、夏までサポート役に回らなくてはいけないことを意味するからだ。
それから1週間ほどがたったある日の放課後。A、B両チームの選手がそろって行うアップ時に、高橋源一郎監督から練習態度を注意された。「腐ったやつがいると、チーム全体が腐る。やるなら心を入れ直せ」。現状を受け止めようとしていたが、悔しさから表情が暗くなり、覇気も無くなっていた。それを高橋監督は見逃さなかった。
叱られた山沢は、はっとした。「Bチームも含めて一つのチーム。腐っちゃいけないと、気持ちが切り替わった」と、自らできることを探した。ノッカーや打撃投手役を買って出て、それまで以上に練習をもり立てた。
そんな山沢の思いを託されたのが、山田希(3年)だ。打撃力を買われてベンチに入っていたが、コンスタントに結果を出すことができず、最後の夏へ向かう今、1年生も含めた仲間たちと内野のポジションを争っている。
山沢と山田は、自宅の方向が同じで、いつも一緒の電車で帰る。話題の中心は、やっぱり野球。それまでは「一緒にベンチに入って、日本一になろう」と励まし合っていたが、春の大会以降は山沢の方から「絶対にレギュラー取れよ」と言われるようになった。
昨夏の愛知大会で背番号「16」をもらったものの、甲子園の18人のメンバーに入れなかった山田。その時の悔しさがあるだけに、山沢の言葉は心に刺さった。「悔しいはずなのに、励ましてくれる山沢のためにも、絶対に甲子園に行って日本一にならないと」。名門校のユニホームは、そうやって重みを増していく。(高岡佐也子)