奈良県上北山村の唯一の中学2年生、小谷陸君(右)。授業には、時間が空いている先生が生徒役で参加する
地方をむしばんできた人口減は今後、都市部でも起こり、人手不足が深刻化する。ずっと前から分かっていた「少子化」を食い止められなかったのはなぜか。平成不況が、到来するはずの第3次ベビーブームの前に立ちはだかっていた。
働き手不足、暮らしにも影
紀伊半島の緑豊かな峡谷にある奈良県上北山村の村立小中学校。2人の「生徒」が、中学2年の国語の授業を受けていた。
「最近地球に起きている問題は何かな?」
平尾梨恵先生(32)の質問に元気よく「温暖化」と答える小谷陸君(13)。続いて、隣の席から低い声があがった。「戦争ですかね」。担任の大藤優先生(22)だ。
かつて村に五つ以上あった小中学校は統合され続け、今やここ1カ所だけ。それでも全9学年で6人しか子どもがいない。教職員は17人。児童・生徒より先生の方が多い。
生徒が複数いる学年は中学3年だけ。「いろいろな人が多様な意見を持っていることがわからなくなる」と福本能久校長は心配する。そこで、時間が空いている教師が生徒役で授業に加わる試みを、昨年から始めた。
記者が学校を訪れた1カ月前の今年3月、村には衝撃のニュースが伝わった。2045年、村内に14歳以下の子どもがいなくなる――。国が発表した最新の人口予測だった。現在の人口は510人ほどで1990年の半分。これが27年後に、さらに4分の1の122人に減るという。
民間バス会社は撤退し、周辺自治体が共同運行するバスが村外への唯一の公共交通機関だ。しかし、最寄り駅まで1時間40分かかり、便数は今や1日1往復。人口の減少がさらに村を不便にする「負の循環」が繰り返されてきた。60代の商店の店主は「考えてもどうにもならない。若い人は早く都会に行けばいい」。
人口減を食い止めようと、村も手は打ってきた。1~18歳の子どもには毎年10万円、小学校入学時と中学校卒業時にはさらに10万円を給付。給食費は無料で、中学生を豪ケアンズのホームステイに派遣する費用、1人当たり50万円弱も全額、村が負担する。
「『蟷螂(とうろう)の斧(お…