吉崎さん(右)と川島選手=吉崎さん提供
サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で19日にコロンビアとの初戦を迎える日本代表の選手を、5年にわたって欧州で支えたトレーナーがいる。ドイツの治療院で働いてきた吉崎正嗣さん(38)だ。欧州各リーグの日本選手たちの治療やトレーニングだけでなく、選手の家族も手助けしてきた吉崎さんは「勝利に貢献して欲しい」と活躍を願う。
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Jリーグの鹿島や東京ヴでトレーナーをしていた吉崎さんは2013年にドイツ・デュッセルドルフへ。きっかけは当時ドイツ1部リーグのクラブに在籍し、現在は鹿島でプレーするDF内田篤人選手(30)だ。けががちの内田選手は、現地に相談できる日本のトレーナーがいなかった。そこで、吉崎さんが所属していたスポーツマッサージなどを事業とする日本の会社が、ドイツ支社というかたちでデュッセルドルフに治療院を開設。吉崎さんがドイツに渡り、内田選手のサポートを引き受けた。
ドイツ語はほぼ話せず、英語も堪能ではなかった。それでも、体を押したり、ほぐしたりする「日本式のスポーツマッサージ」は欧州では珍しく、日本選手から紹介を受けた外国選手の体のケアもするなどして徐々に仕事の場を広げた。
FW大迫勇也選手(28)やGK川島永嗣選手(35)とは数年前から契約。折りたたみ式のベッドを積んだ車で、デュッセルドルフから数時間かけて欧州各地の選手の自宅に向かい、治療にあたってきた。
選手の苦しい時期も知っている。15年に半年間、所属チームがなかった川島選手は、自分でトレーニング施設を探していたという。「永ちゃん(川島)はイタリアのチームに自分で練習参加の許可を取ってきてすごかった」と語る。
欧州での日本代表の試合では、大きなレンタカーを借り、代表選手の家族を乗せて3時間半運転して現地まで送ったこともある。「選手の家族を乗せた車を運転するのはすごく緊張する。トレーナーの仕事じゃないとも思うが、家族が喜べば、選手のパワーにつながるかもしれない」
5月末にこれまで所属していた会社を退職。今回のW杯で欧州での仕事に一区切り付け、米国に移住する予定だ。「日本のマッサージ技術の良さをより広く伝え、待遇面も含め、日本でトレーナーが夢のある職業になるきっかけになればいい」。日本代表が世界に挑む一方で、吉崎さんもまた世界に一歩歩み出す。(堤之剛)